keith中村

アメイジング・グレイス アレサ・フランクリンのkeith中村のレビュー・感想・評価

5.0
 昨日「リスペクト」を観てきて、大変面白かったんだけれど、「おもしろかったです」以上の感想をうまくまとめられそうにないのでレビューはしてません。
 本日、アレサがその「リスペクト」を歌う「ブルース・ブラザーズ2000」を観返して、やっぱ最高だなあ、と思いながらU-NEXTの新着を検索すると、本作がありました。
 U-NEXT、グッジョブ!(有料だったけどね)
 
 「リスペクト」は、最高だったんです。歌のシーンは素晴らしすぎて、序盤からずっと涙ぐんでしまったくらい。
 ジェニファー・ハドソン、当たり前だけど、うま過ぎ!
 ただ、第三幕に入って、ちょっと失速するんですよね。かなりこの手の映画のクリシェに偏りすぎてる感じで。
 もちろん伝記映画なんで、「類型的だ!」なんつっても、それが事実だから仕方がないんだけれど、そういう意味じゃなく、映画としての「いつものあれ」を脱することができていなくて、レビューしてないのは、そこがモヤモヤしたからなのですよ。

(私が知ってる限り、このクリシェを逃れて傑作になったミュージシャン伝記映画は「グレン・ミラー物語」しか思いつかないんだよね。要するに、作劇の基本パターンとしては「だんだん右肩上がりに高くなっていって、第二幕終わりで一度ドーンと落して、そこからラストにかけて最高潮に盛り上げる」ってのが常套手段なんですが、「グレン・ミラー物語」は、ひたすら高みにあがっていく、「感動的な作劇セオリー」無視の作品なんだけれど、素晴らしいんだよなあ)
 
 とはいえ、その「リスペクト」の失速した第三幕でも、クライマックスとなるニュー・テンプル・バプティスト教会のコンサートで歌われる「Amazing Grace」はさすがに凄かった。
 で、本作はそのコンサート自体を撮影したドキュメンタリー。
 だから、ちょうど「ボラプ」を観てから、「Live Aid」オリジナルを見るような感じで鑑賞できます。
 
 ジェニファー・ハドソンも凄かったけど、本家アレサはとんでもないですね。
 
 さて、本作は1972年のコンサート・ドキュメンタリーなんだけれど、公開されるはずだったのがお蔵入りしたもの。
 それが約半世紀を超えてようやく公開された。
 今年はそのそっくりな例として「サマー・オブ・ソウル」もありましたね。あれも良かった。
 (本作はアメリカでは今年じゃなくアレサの没年の2018年公開ですが)
 
 「リスペクト」での、この教会のシーン。
 教会の名前が書かれたマーキーを、右から左にパンしてて、なんかすごく違和感があったのですよ。
 だって、"The NEW TEMPLE Missionary BUPTIST CHURCH"って左から書いてあるんだから、左から右にパンして写すのが自然じゃないですか。それが逆。
 何でかな、と思ってたけど、本作がそうやって撮っているので、その完コピだったんですね。
 次の扉を開けて教会に入るカット(入口の但し書きがアップになる)も完コピでした。
(っていうか、昨日観たばっかなのに、あれが完コピだったのか、まんま本作のフッテージ引用だったのかも思い出せないや。「リスペクト」はフィルム撮影映画だったんで、質感も良かったですよね)
 
 「リスペクト」では語られてないけど、本作はなんとシドニー・ポラックが監督。
 序盤でちょいちょい映り込んでます。スチルを撮ってるところも映ってる。
 ポラックとドキュメンタリーって何か結びつきませんね。あと音楽映画ってところも。なんで白羽の矢が立ったのかな?
 
 本作は連続2夜に亙って教会で行われたアレサのゴスペル・ライブのドキュメンタリー。
 父親であるC・L・フランクリン牧師も登場します。これを見ると、フォレスト・ウィテカーがかなり寄せてきてるのがわかる。結構似てる。
 
 一日目の終わりに、MC(?)のクリーブランド牧師が「皆さん、明日もお越しくださいね。お楽しみはこれからです」みたいに言ってるんだけど、「お楽しみはこれからです」は原語では"You haven't heard anything yet"でした。
 これは、英語では常套句になっている、"You ain't heard nothin' yet"の叮嚀バージョンですね。
 日本語字幕でも「お楽しみはこれからだ」と訳するのがお作法となっているもの(本作では訳が違ったけどね! わかってないなあ!)。
 叮嚀バージョンと書いたのは、何しろ教会だから、下品な"ain't"じゃなく"haven't"(日本語なら、「じゃねえ」の代わりに「じゃない」)。"not ~ nothing"は話し言葉では強意だけど、正しい文法的には二重否定になっちゃうから"not ~ anything"と言い換えてる。そういうところも興味深かったです。
 
 そういえば、「リスペクト」でも息子が"ain't"って言って、アレサがたしなめる場面がありましたよね。
 あれも、もしかしたら本作を参考に思いついたものかもしれません。
 
 で、次の二日目。
 なんと、観客(ってか、参拝者? 礼拝者?)にミック・ジャガーとチャーリー・ワッツがいます!
(あ、チャーリー、こないだ鬼籍に入られましたね。R.I.P!)
 ミックはノリノリでハンド・クラッピングしてました。
 ミックはアレサのひとつ年下。たまたまアメリカにいたのかしら。それともわざわざ見に来たのかしら。
 ピストルズの"The Great Rock'n'Roll Swindle"で、"Mick Jagger, white nigger"って言われてるくらい黒人音楽好きだもんね。
 
 さてさて。最後にもっかい、「お楽しみはこれからだ」に話を戻しましょう。
 これは、アル・ジョルスンのキメ台詞。
 "Wait a minute, wait a minute. You ain't heard nothin' yet!"
 アル・ジョルスンが主演した、世界初のトーキー「ジャズ・シンガー」でももちろん言ってます。
 ラリー・パークスが演じた「ジョルスン物語」でもキメ台詞になってた。
 
 でね。
 才能のある新人を褒める時に、「誰それの再来」なんて言い回しがあるじゃないですか。
 ジョルスンを引き合いにそう言われたのが、若きジュディ・ガーランドでした。
 「女アル・ジョルスン」と言われたんですよ。
 
 でさ。
 「リスペクト」では、アレサが「黒人版ジュディ・ガーランド」って言われるところがあるじゃないですか。
 
 そんでもって。
 本作では、クリーブランド牧師がジョルスンの「お楽しみはこれからだ」を言ってるんです。
 なんつーか、ジョルスン→ジュディ→アレサ→ジョルスンと、綺麗に円環構造になってますね。
 観てよかったぁ~~!
 
 そんな些末な話も含めて、「リスペクト」はレビューをポストしてないけど、本作と同じく満点です!
 それに、このコンサートの8年後にアレサが"Think"を歌った「ブルース・ブラザーズ」も当たり前だけど満点。
 あの映画では、本作でいちばんノリノリなゴスペルの"Old Landmark"を牧師に扮したJBが歌ってましたね~。