いしはらしんすけ

パブリック 図書館の奇跡のいしはらしんすけのレビュー・感想・評価

パブリック 図書館の奇跡(2018年製作の映画)
3.7
往年の青春スター、エミリオ・エステベス製作・監督・脚本・主演による、実話にヒントを得たハートフル・ムービー。

スターのセルフプロデュース作の中でもいわゆる「小さい」タイプの映画で、それだけでも自ずと好感度は高い訳で。

ぶっちゃけ脚本や演出の面で細かい部分が未整理で詰めきれてないと思わなくもないんですが...なんか「惜しい」とかより「伸びしろですね!」とじゅんいちダビッドソンボイスで言ってしまう自分がいたりします。

特に敵サイドのクリスチャン・スレーター演じる市長候補の検察官とアレック・ボールドウィン演じるグレた息子を持つ交渉請負警察官、あと女性キャラ全般周りの描写が、めちゃめちゃポテンシャル感じるだけに、もっとドカーンと来てくれれば、名作たり得たなぁ、と。

具体的な対案がスッとは出てこなくてすみませんですが、語りの手順やらセリフの言い回し、カメラワークなど、ちょっとしたチューニングで、大幅にクオリティが上がった気がします。

逆に言うとピンポイントで印象的かつアガったり染みたりするシーンは結構あって、
「声をあげろ」チャントのとことか、チャラい女性レポーターと主人公、スチュワートさんの中継電話のくだりとか、グッときまくりでした。

そして今のタイミングだとBlack Lives Matterなどを連想させる、社会的弱者に対する制度とヒューマニズムへの考察といった普遍的な問題意識を、明快なメッセージとして内包している、この一点だけでも「その心意気やよし!」でしょうよ。

あと舞台となる図書館を「知」の象徴と見立て、理知的な態度こそが偏見や感情的対立の抑制になる、平たく言うと「本が私を人にしてくれた」的なやつ、これもう全乗っかり出来ますんで、私の場合。

情報源としての本だけでなく、小説も重要な役割を担わせてるあたりも、文学部出身者としては嬉しいポイント。

という訳で、劇中でも鍵となるスタインベックの「怒りの葡萄」、今さらながらそのうち読もうと思います。