ぴのした

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊のぴのしたのレビュー・感想・評価

4.0
待望のウェスアンダーソンの新作。毎回のことながら、計算し尽くされた美しいカットと、気の抜けた愛らしいストーリーにやられる。

展開のスピードが速く、登場人物も多く、物語の構成も入れ子になっててややこしいのだが、要はとある雑誌の最終号の内容をいくつかのパートに分けて映像で見せてくれるというもの。

一瞬しか写らないような場面でも、構図や色彩、衣装、それぞれの役者の動きにとんでもない労力(とおそらく資金)が注ぎ込まれていて感心する。犬ケ島の時も思ったが、一コマずつ切り出して絵画にしたアートブックがあれば欲しいくらい。

もっと一瞬一瞬をじっくり見たいと思わせるほどの出来なのに、あえてサッサと進むのがウェス作品らしい。

個人的には2本目の刑務所の美術家の話が好きだったな。モノクロのレアセドゥの刑務官姿が美しすぎる。描かれた絵画も迫力があり、本当の名画に見える。最後の壁画はティルダスウィントンの夫が2ヶ月で描いたらしい。すごすぎ。

ラストの警察シェフの話もグランドブタペストホテルみたいな事件もののハラハラドキドキ感があって楽しかった。バンドデシネ風のアニメが挟まるのも良い。全体的に遊び心を感じられた。

フレンチディスパッチは架空の雑誌だが、「ニューヨーカー」をモデルにし、主な登場人物もみんなニューヨーカーの記者などモデルがいるらしい。

3本目のティモシーシャラメの話も、ヌーベルバーグやフランス5月革命へのオマージュがあるらしく、単にほのぼのする映画としても見れるのに、パンフレットを見ると、実はめちゃくちゃ多方面の文化への教養と愛に裏打ちされていることが分かる。それこそが、ウェスの作品が単なる空虚なオシャレ映画に終わらない秘密なのかもなと思った。