YasujiOshiba

シライサンのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

シライサン(2020年製作の映画)
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ネトフリ。今日はジャケ買みたいなことをやろうと思って、悪評高いネトフリのポスターだけでクリック。つまんなかったら止めるつもりが最後まで見てしまった。これぼくは好きだな。

飯豊まりえがよいね。近頃流行りの整った見た目と端正な演技は、なんだか新しいスクリームクイーンって感じ。なんといってもスクリームが端正なところがよい。

お相手の稲葉友くんは仮面ライダーボーイなのね。いい感じの美男美女を主役に持ってきて、あまり重要じゃないところに谷村美月とか染谷将太とかが登場するってのは、ようするに松竹さんが力入れてるってことなのだろうし、これが監督デビューの安達寛高が、乙一として知られるノベリストとして期待されてるってことなんだろうな。

出来栄えは悪くない。ところどころJホラーの既視感(あるいは黒沢清へのリスペクト)がある。でもわるくない。むしろ好感が持てる。たとえば、「シライサン」の呪いの説明だって、さりげなくも大袈裟になることなく入れてきているし、それがSNSでつながる時代のホラーであることも仄めかしている。いいじゃない。

そしてなんと言って「シライサン」の映像。この見せ方がうまいんだな。メークもそこそこ怖いし、怖すぎることもない。ちょうどいい加減なんだな、これが。ラストはほとんど予想どおりなんだけど、最後のあのカットは余韻があってよい。ホラーはこうじゃないとね。

暗転してエンドクレジットのところで初めて音楽らしい音楽がかかるんだけど、Cö shu Nie(コシュニエ)の音がよい。映画にぴたりと寄り添うような楽曲 inertia は名曲じゃないか。こういうベースとハイハットの組み合わせは好きだな。そこに乗っかる雰囲気のボーカルに深みを与えているよね。

その中村未来の声で、最後の最後に「怖くないよ/あなたがいる/場所なら/どこでも」と歌われてしまうと、やられたと思ってしまう。なんといっても、飯豊まりえだけは、「怖い場所」からは出てしまったのだけど、そこに「あなた」はいないのだ。もとの「惰性 inertia 」の世界は、何もかも忘れることで生きながらえる世界のなのだけど、それでいいのかという問いかけがここにある。

むしろあの恐怖の「ひとみ」とその人と向き合った瞬間こそが、「コートが脱げないほどに」寒い場所であるとしても、「あなた」がいることで「怖くない」世界であったのかもしれないという逆説。

なるほど。やたら特殊効果に訴えることなく、脚本と音と映像で端正にみせる端正なホラー映画だな。おもしろかったわ。
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