tanayuki

パリに見出されたピアニストのtanayukiのレビュー・感想・評価

3.6
メロヴィンジアンが駅ピアノでバッハを弾く不良青年マチューの演奏に魅入られ、実にいい塩梅に人生を狂わせられる物語。紆余曲折あっても最後にバッチリ演奏を決めて感動させればいいんだろといわんばかりの、よくありがちなサクセスストーリーに気が滅入る。

コンセルヴァトワールの生徒がそんなに無能なわけないじゃんとか、国際ピアノコンクールが1曲だけの審査なわけないじゃんとか、ツッコミどころがいろいろありすぎるし、完璧すぎるストーリーはウソっぽくて逆に信じられないんだよなあ、初期のマトリックスが人間にうまく受け入れられなかったのも、それが原因なんだよなあなどと余計なことばかり考えてしまって、うまく入り込めなかったんだけど、次の2人のやりとりを聞いて目が醒めた。

ピエール「君と私の違いは? 私は音楽で迷子になり、君は自分を見つける。たぐいまれなる才能だ」
マチュー「迷子?」
ピエール「そうとも。演奏には子供の心が必要だ。『天才は子供の心を取り戻した大人』ボードレールだ」

子どものような好奇心、新しいことにワクワクする気持ちをいつまでも失わずにいたいと常日頃から願っている自分には、ボードレールのこの言葉がまっすぐ突き刺さって、ああ、君もおんなじことを思ってたんだね、とうれしくなってしまった。どれだけ知恵がついても、知らないことは知りたい、わからないことはわかりたいと思える人でありたいな。

△2023/02/14 アマプラ鑑賞。スコア3.6
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