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燃ゆる女の肖像のRenのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.0
素晴らしかった。誰かを見つめること、そこから誰かを愛すること・ラベリングしてしまうことという「全員が恋愛をする上で避けては通れないもの」を描いたラブストーリーの決定版。絶賛も納得。

相手を見つめているとき、相手もまたこちらを見つめている。

ここまで俳優の目線の動きに注目して観た映画は初めてかもしれない。そのテーマ性ゆえ表情のアップが非常に多く、監督も俳優の演技を信用しきっていることが見てとれる。表情筋 数ミリメートルの動きを捉えられるかどうかの世界。美しさと絶妙な緊迫感が素晴らしい。
マリアンヌ役のノエミ・メルランが黒目が大きくとても目鼻立ちのきりっとしたお顔立ちなので、彼女に画面越しに見つめられる度にハッとしてしまう。

『NOPE/ノープ』も見る/見られるの映画だったが、あちらがカメラを通した「映画論」になっていたのに対し、今作の見る/見られるはもっとミニマルでパーソナルな意味合いとして語られていたように思う。
お見合い用の肖像画を描くマリアンヌにとっては、モデルであるエロイーズ(アデル・エネル)を見つめる=絵を完成させることが彼女との別れや望まぬ結婚の助長であることは分かっているのに、自分が彼女を愛した記録・記憶を残すためにそれでも見つめたいと思う矛盾した感情を、純愛として見せてくれた。

徹底して男性の排除された空間。これがレズビアンの恋愛だということも忘れて、人と人の恋愛だと知らぬうちに捉えているとこに気がつく。結婚や妊娠など女性性は随所に散りばめられているけど、こと純愛においてはその性差が介入する余地は無い、ということかなと思った。
終盤、男性が映り込んだ瞬間の「魔法が解けた」感。現実なのかどうかもあやふやなほどに美しい二人の空間が、恋愛が、ぷっつりと断たれた感。この世界はマリアンヌとエロイーズだけが額縁に入れられた絵画のようなものだと思っていたのに、当然ながらそうではなかったという現実。

人それぞれ好みはあるでしょうが、この映画を観て「美しくない」と感じる人はきっといないはずで、徹底して清潔で眼福な映像美の中で人間の表情を切り取ったことに成功した傑作だった。
劇伴も無い中響く自然音は、さながら2時間に渡るASMR。真っ暗な部屋で、イヤホンでの鑑賞をおすすめ。

その他、
○ オープニングで、画家であるはずのマリアンヌが何故かモデルとなっている。つまりエロイーズの立場であり、見る/見られる は紙一重であること。
○ 日本版ポスターの「肖」の字の反転。自分が(鏡越しに)見る自分の顔と、肖像画として描かれる顔は反転している。見る/見られる の仕掛け。

15以上の映画レビューを収集したサイト "Metacritic" による2010年代最高の映画
① 6才のボクが、大人になるまで。
②ムーンライト
③ ROMA/ローマ
④マンチェスター・バイ・ザ・シー
⑤それでも夜は明ける
⑥ゼロ・グラビティ
⑦パラサイト 半地下の家族
⑧燃ゆる女の肖像
⑨キャロル
⑩ソーシャル・ネットワーク



《⚠️以下、ネタバレ有り⚠️》










エンドロール直前の長回しももちろん素晴らしい。中盤に象徴的に語られたオルフェウスの物語(神話の知識が無くこの話はこの映画で知った)では「振り返った」ことで永遠の別れとなってしまった夫婦。
エロイーズの「振り返って!」で思わず振り返ってしまったマリアンヌ、ここで怖いくらい唐突に暗転するが、これこそがつまり別れだった。

ラスト、エロイーズはけっしてマリアンヌを振り返らない。あんなに見つめ合っていた二人だが、彼女が敢えて振り返らないことによってお互いが過去の出来事を回想し、永遠のものとなる。振り返らないままでいることで、映画の中で彼女たちが「終わらない」関係になったのだと感じた。
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