空海花

名もなき生涯の空海花のレビュー・感想・評価

名もなき生涯(2019年製作の映画)
4.3
今年公開の作品。配信レンタルにて。
これは先日鑑賞。劇場鑑賞ではないのに順を変えた理由は文末にて。
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プロローグ、草を刈る音が音楽に聴こえた。
舞台は第二次大戦下のオーストリア。
山脈が美しい雲の上の村。
農業を営むのどかで小さなコミュニティ。
とても素朴な生活は、とても幸せ。

歴史を知っているから、
それが壊れるのはあまりに近い未来だということを
うっすら頭の片隅に抱えながらも、
美しい景色と共に
観ていて胸が満たされるような多幸感だ。

しかし小さな村にも戦争の影が差し
農民である主人公フランツも訓練に駆り出されることになるが
過ちを犯したくないという内なる声に気付き
彼はそれに背けない。
神は救いに現れない。
それでも真摯に信じ続けるのは
宗教上の教えでもあるが、
そんな難しい話よりもただ自身が育まれ培ってきた精神土壌のようでもあり、
ただ自分自身の信念でもあって、
現代に生きる私たちでも共感できないものではない。
“神の不在”はスコセッシの「沈黙-サイレンス」が思い出されるが
フランツはそれをあまり意に介してはいないように思える。
印象的な映像の光がそう思わせる。
ただ貫き通すのはとても苦しい。

当然、愛する家族も辛い仕打ちを受ける。
妻は彼の1番の理解者で有り続けた。
彼女も何の力もない一女性である。

何でもない、何にもならない、
何も変わらない
耳打ちするような言葉が、痛い。

教会の絵画の修復師だろうか、
彼の言葉が印象的。

この物語は言葉が少なく、ある意味多い。
マリックの詩的表現である。
また、台詞はあっても字幕がない部分が多い。
言葉なき怒声や中傷は意味をもたらさない。
手紙をしたためる言葉が行き交う。
これは作品の賛否が別れる原因の1つになったようだ。

一望千里の景色や光、全てのカットが素晴らしく、
ストーリーの一部であるよう。
ラストシーンの移り変わりや
フランツの心象風景は悲しく美しく。
風景で語るにはこの長さが必要だったのだろう。
とは思うがほぼ3時間の長尺。
ただそこまで抑揚がなく苦しい物語を成立させるところが巨匠の為せる業なのか。

今年2度見たアウグスト・ディール。
前作はクセのある嫌な役を上手く演じていたが
今作の一作品の中で変わっていく様や眼光は
胸に迫るものがあった。

メッセージはしっかりと
エンディングに語られる。
これには私は共感した。

これがブルーノ・ガンツの最後の出演作となってしまいました。RIP.


2020自宅鑑賞No.26/102

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理由は、7月もあっという間に終わりなので
上半期10作品を選びました☆
旧作レビューに書くのは気が引けたので、
せめて今年公開のレビューに記しておきます。

【2020上半期トップ10】
①地獄の黙示録 ファイナルカット
②リチャード・ジュエル
③フォードvsフェラーリ
④1917 命をかけた伝令
⑤ジョン・F・ドノヴァンの死と生
⑥黒い司法 0%からの奇跡
⑦Fukushima 50
⑧ジョジョ・ラビット
⑨象は静かに座っている
⑨男はつらいよ お帰り 寅さん

日本公開日が基準のつもりだったのですが、
上半期ということもあり
9,10位は昨年公開だけれど今年見た作品を入れました。
1位も新作ではなく編集ですが
ただ今年やったことに意味があった気がしました。象徴的な印象を受けました。
リスペクト3作。年間ベストには絡めないつもりです。たぶん。

今年は見逃しているものが既に多くあります😣
でも最初の方は映画館結構行けてたなと思います😌


ネタバレコメントは修復師?の言葉の端折った覚書きと、ネタバレ。
空海花

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