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家族を想うときのrage30のネタバレレビュー・内容・結末

家族を想うとき(2019年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

個人事業主契約で働く、宅配ドライバーの話。

「働けば働く程に儲かる」…そんな希望を持って働き出す、主人公のリッキーだったが、その実態はノルマに追われ、休日どころかトイレに行く事さえままならない、過酷な労働環境だった。

ドライバーの休息や急な欠勤を一切考慮せず、まるでロボットの様に扱う宅配事業者の非人間性が恐ろしいと同時に憤りも感じたし、逆に、社会保障を始めとした労働者を守る権利やシステムが如何に大切なのかも痛感させられた。

仕事に追われ、家族との時間が奪われる中で、子供達にも変化が起こる。
娘はともかく、息子はバイトして助けろよ…と思わなくもないが、将来に絶望し、反抗したくなる気持ちは分かるし、子供達は両親の抑圧された怒りや不満を表出する存在でもあるのだろう。

金融危機によって、家と職を失った彼らは決して自己責任で、この状況に陥ったわけではないし、むしろ労働意欲に溢れた真面目な人間である。
車の鍵を隠した娘も、疲れ果てた父親を思いやれる優しい心の持ち主だ。
誰も間違った事はしていない…だからこそ、この一家を襲う悲劇に一層やるせない気持ちにさせられる。

家族との食事を中断して、介護に向かう母親の様に、誰かがした“楽”の代償は、他の誰かが支払っているという事。
まずは、そこから考えよう。
時間指定や再配達…宅配に限らず、世の中にある利便性の裏に何があるのか、想像する事から始めよう。

社会問題を正面から扱う、ケン・ローチ作品はなかなか見るのが億劫でもあるのだが、一度見始めると、すっかり引き込まれてしまった。
それはケン・ローチが社会の闇だけではなく、暖かさやユーモアなど、人間の光の部分も見つめているからなのだろう。
見るのは辛いが、見ておいた方が良い…いや、見なければいけない映画というものが世の中にはある。
その1つがケン・ローチの作品なのだ。



余談
本作は実際に働きづめで病院に行けず、死亡してしまった宅配ドライバーの話が元になっているとの事。
あのラストショットには、そのイメージが重ねられているのかもしれない。
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