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マティアス&マキシムのsomaddesignのレビュー・感想・評価

マティアス&マキシム(2019年製作の映画)
5.0
仕事を聞かれて会社名を答えるような人になりたくない、と決意した日のことを思い出した

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幼なじみのマティアスとマキシムは、友人の短編映画で男性同士のキスシーンを演じたことをきっかけに、心の底に眠っていた互いへの気持ちに気づき始める。婚約者のいるマティアスは、親友に芽生えた感情に戸惑う。一方、マキシムは友情の崩壊を恐れ、思いを告げぬままオーストラリアへ旅立つ準備をしていた。別れが目前に迫る中、本当の思いを確かめようとするマティアスとマキシムだったが……。

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不勉強にもグザヴィエ・ドラン監督作初鑑賞。
この際なので復習したら、まだ31歳で「マイ・マザー」「たかが世界の終わり」「わたしは炉ランス」「ジョン・F・ドノバンの死と生」と話題作ばかりを作り上げた俊英。今作の主演・マキシム役も務める……なんだ、ただの天才か。

フランス語で会話してるので、てっきりフランスが舞台の映画だと思ったら、カナダ・モントリオールの物語。ドランがエジプト系カナダ人でモントリオールの出身だからか。(ケベック州の公用語はフランス語だったような) 劇中、フランス語と英語がごちゃ混ぜで、この言葉が通じる/通じない問題も、恋愛のもどかしさの表現の一端を担っててイチイチ巧妙。

同性愛が主題じゃなくて、人生の節目に新しい関係性に気づいてしまって戸惑う二人の物語に見えた。幼馴染で兄弟同然に育った二人だけど、30前後になって人生の道を違えつつある。育った環境の差や、社会的・経済的格差が歳を経るごとに広がっていってしまった二人。マキシムが可能性を求めて新天地に旅立とうとするのと対照的に、マティアスは自分が何者であるか/何がしたいのか足掻いてる人に見えた。

顔のアザに象徴されるように、その人自身よりラベルで他人を判断しがち。マキシムには足枷だし、マティアスは一見恵まれてるけど「〜であらねば」に囚われて自縄自縛してるよう。見え方は違うけど、二人とも同じ足枷の裏表で苦しんで、二人を隔てる障壁なのが興味深い。

冒頭から同じ向き・同じペースで進むランニングマシン、赤と青で横並びからの向き合ってキス、激しく揺れるブランコ、夜明けのクロール無茶泳ぎ、カフェでの空目、仲直りのソファetc….ことほど左様に、二人の心象風景や関係性の変化をセリフで説明することなく、映像一発で伝えちゃう手腕。ラストシーンでの二人の向きと距離感がオチらしいオチっちゅーのか、見事な着地で美しい。(演出そのものは超ベタなのに、奇を衒う事なく、若くしてベタをやりきるフルスイングっぷりが清々しい)

まだまだ未知数の二人の行く末を暗示するような、明るい日差しと吹く風のコントラストが奇跡だし、晴れやかに互いを見つめる二人の視点。自分が何者になるか/何者であるか決めるにしろ、保留するにしろ、まずは新しい一歩を進める二人の尊さ。


二人を取り巻く仲間達の視点も素敵で、今更彼らを囃し立てたり、変態扱いするバカがいない。バカはするけど性的指向くらいで仲間の絆が揺らぐことがない。なんなら「二人が特別な関係だって、とっくに知ってたよ」の信頼ニュアンスが泣けるし、絶妙な距離感で二人を見守る視点が素敵だった。(実生活でも友達なホントの仲間をキャスティングしたらしい)


53本目
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