ごてふ

ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方のごてふのレビュー・感想・評価

3.9
銀座シネスイッチにて。公開翌週平日夕方の回。中高年の単身者ばかり10名前後と閑散。ロス郊外で農場を運営する夫婦の8年間にわたる艱難辛苦と豊穣たる成果を記録したドキュメンタリー。邦家の脱サラ農業などとはスケールが違う。敷地200エーカー(東京ドーム17個分)には250種類の野菜・果実が根を張り、800種類の昆虫・動物が生息しているそうな。不毛の大地が再生される様は驚嘆の一語に尽きる。それは単なる農場の域を超えて生態系を構築する小宇宙でもある。素人農夫(婦)のふたりには自然(有機)農法を指南する名伯楽あり。この世に生を受けた者たちは、例外なく食べて排泄して繁殖する。バランスを欠いた増殖には安直に農薬や銃器による殺生などはせず天敵を差し向ける。作物に吸い付くカタツムリにはカモを、果実を狙うムクドリにはフクロウを、そこかしこに堆積する牛糞に湧く蛆虫にはニワトリを、根を齧る地ネズミにはコヨーテや犬を。害虫や猛禽でさえも循環の一部に組み込もうと腐心する。カメラマン出身の監督らしく、腰の据わった動植物の生態描写は的確。万巻の素材から取捨選択されたであろうエピソードの数々。麗々しいものばかりではなく非情で冷酷なシーンも多々あり。編集と語り口に非凡なセンスを感じた。我々は工業製品のようなピカピカだが虫も喰わないような農薬まみれの野菜を得た代わりに、泥臭くえぐみのある深い滋味を失ったのだ。人間もまた循環する生態系の一員である、という当たり前のことを再認識させてくれる佳作。
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