Jun潤

朝が来るのJun潤のネタバレレビュー・内容・結末

朝が来る(2020年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

2020.10.31

予告を見て気になった案件。

永作博美演じる母・佐都子と、井浦新演じる父、そして息子の朝斗。
どこにでもいる普通の家族・栗原家。
ある日幼稚園で朝斗の友達が怪我をしたという。
怪我をした友達は朝斗に押されたと言うが、押していないと主張する朝斗。
息子の言うことを信じたい佐都子は、過去に思いを馳せる。
不妊治療がうまくいかず、なかなか子宝に恵まれない二人は、特別養子縁組・ベビーバトンという制度を知り、運営団体の説明を聞くことに。
実際に制度によって子を授かり、子育てをしている家族の話を聞き、養子を受け入れる決意をする。
朝斗を産んだ母・片倉ひかりとも対面し、ようやく子を授かった二人。
現代、朝斗が友達とも和解した頃に、一本の電話が鳴る。
朝斗を返して欲しいと言う片倉ひかりを名乗る女性を家に呼んだが、以前対面した時とは全く違う容姿、子を想っていないような態度に、二人は別人と判断する。
その後、二人の家に警察が訪れる。
そして場面は切り替わり、同級生と恋人同士になった少女・片倉ひかり。
愛を深めていくうちにやがて体を重ね妊娠、ひかりは両親からベビーバトンの話を聞き、出産までベビーバトンの寮で暮らすことになる。
無事出産し、栗原家に子供を託したひかりは、両親が親戚には不本意な妊娠であったと説明がされていたことを知り激昂、恋人とも疎遠になる。
高校にも進学せず、家を出たひかりはベビーバトンの寮で働こうとするが、ベビーバトンの寮が近々閉鎖するという話を聞く。
寮を出たひかりは新聞配達のバイトをして暮らしていた。
そこでできた友人の借金の連帯保証人にされ、友人は姿を消し、ひかりは金を工面するも、すがるように栗原家に電話を入れ、子供を返して欲しいと詰め寄る。
しかし母であることを否定され、朝斗のことも、恋人との愛もなかったことにされたと感じたひかりは姿を消す。
警察からひかりの写真を見せられた佐都子は、朝斗とともに託された手紙に隠されたひかりの想いを知り、朝斗と共にひかりと再会する。

予告の段階から養子縁組をテーマにしたサスペンスかと思いきや、実際に不妊治療を経て養子を授かった親の描写と、自分の子供を養子に出す世間的には不本意な妊娠をしてしまい、子を手放すことになる女性の描写、そしてそこからどのような人生を歩むことになるのかという、美しい現実と、正反対の場所にある目を背けたくなる現実を丁寧に、真摯に描いていました。
どこにでもいるような、子宝に恵まれない夫婦や望まぬ妊娠をしてしまう女性、その人たちが向かい合う現実。
序盤に幸せそうな栗原家の描写、不妊治療をしても子宝に恵まれない現実から脱して養子縁組で子を授かる佐都子たちがいたからこそ、後半の望んだ妊娠をしたはずが周囲からは祝福されず、恋人とも子供とも離れ、やがて信頼している大人や友人との別れなどの現実に翻弄されるひかりの描写がとても胸に刺さりました。
キャッチコピーの「あなたは、誰ですか。」も、誰かわからなくなるくらい辛い人生を送ってきたひかりのことを一言で表していると思えますね。

主題歌はC&Kの「アサトヒカリ」。
朝斗とひかりを組み合わせた曲名にニヤリとしつつ、栗原家でも朝斗と佐都子が口ずさみ、ひかりが寮にいた時にもラジオからこの曲が流れ、朝斗とひかりが再開した直後に流れるだけでも限界でしたが、最後に朝斗の歌声が流れたことで涙腺が崩壊しました。
この曲を聞き、作中のひかりの言葉を思い出すと、養子縁組は子を産んで受け入れ先に託して終わりなどではなく、子どもが受け入れ先で育っていくとしても、この世に産んだ母の存在はなかったことにはならないんだなと感じました。
そういう意味でも、ひかりが寮で共に日々を過ごした友人たちにも、それぞれの物語があったのかもしれませんね。

所々ドキュメンタリーのような感じがあり、これは決してフィクションではなく、養子を受け入れる家族も、望まれぬ妊娠をする女性も、現実には数え切れないほどいるんだなと感じました。
どのような現実に直面していても、必ず「朝が来る」。
Jun潤

Jun潤