耶馬英彦

Winnyの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

Winny(2023年製作の映画)
4.0
 権力者の一番の目的は、権力の維持だ。もっと具体的に言えば、権力者である自分の立場を守ることだ。歴代自民党政権はずっとそうだった。権力者の立場を維持するためにアメリカの言うことを聞かねばならないのなら、喜んで尻尾を振る。まだ大統領に就任する前のトランプにいち早く会いに行ったアベシンゾーの浅ましい姿がその象徴だ。
 彼らは哲学もなく、論理もなく、科学も重んじない。培ってきたのは流暢な舌先三寸と権謀術数だけである。脅しと透かし、アメとムチ、何でも使って官僚をてなづけ、マスコミに忖度を強制し、財界に同調させる。時として労働組合の姉御とも手を組む。政官財報労のペンタゴンだ。そんな連中がヒエラルキーの上位に居座っていては、国民は自由を奪われ、活気を失って疲弊し、当然の結果として経済は縮小する。

 そんな社会構造の中でWinnyが開発された訳で、その可能性に気づく人々がいる一方、既得権益の保守に余念がない連中は、国民に知らせたくない情報が流出してしまうことを恐れ、開発者も利用者もすべて取り締まる暴挙に出る。
 三浦貴大が演じた壇弁護士は、Winnyの可能性に気づいた少数派のひとりで、なんとしても無罪を勝ち取らなければ、日本のソフト開発に未来がないと判断する。しかし日本の司法はあまりにも行政寄りだ。行政を正面から否定する判決は滅多に出さない。
 Winnyの裁判が長引いた結果、日本のソフト開発は遅れに遅れ、その間にアメリカのGAFAに先を越されて、世界のインターネットビジネスから弾き出されてしまった。サラリーマンはGoogleで検索やファイル共有を行ない、エクセルで計算してアクセスやファイルメーカーでデータを管理する。SNSはGoogleのyoutubeやメタのFacebook、InstagramやTwitter社のTwitterなどに席巻されている。かろうじて生き延びている日本製のソフトは日本の税法や証券取引法に合わせた会計ソフトや労務管理ソフトくらいなものだが、残念ながら海外では使えないガラパゴスプログラムだ。

 本作品を鑑賞して思い起こした方も多いと思うが、近頃話題になっている、高市早苗が総務大臣時代に発言したとされるメディアに対する言論弾圧の構図とよく似ている。もしこのまま高市が議員辞職をせず、放送法の解釈が勝手に変更されたままになってしまうと、日本のメディアは言論の自由を奪われることになる。Winnyの取締りによって日本のソフト開発が駄目にされたのと同じだ。

 そう考えると、本作品がこの時期に公開されたことは、奇跡の時宜だったと言える。壇弁護士役の三浦貴大の演技はとても上手だった。東出昌大の演技はややエキセントリックに過ぎた。実際の金子勇さんはずっとまともでナイーブな人だったと思う。
耶馬英彦

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