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犬王のRenのレビュー・感想・評価

犬王(2021年製作の映画)
4.0
『きみと、波にのれたら』(結構好き)を観たときに、クセが取れたな〜分かりやすく大衆向けになったな〜などと思っていたら、それは嵐の前の静けさだったというオチだった。本作はとにかくクセ全開。クセしかない。傑作と珍作の分水嶺。

「今誰が何をしているんだっけ?」「これって何の話だっけ?」と考える隙を与えない。脳を経由しない、脊髄反射の興奮が濁流のように押し寄せる98分の劇場体験。とにかく映画館で観てください、話はそれから。ノリ方、煽り方、盛り上がり方、まさに目の前でロックフェスが繰り広げられているよう。

劇中に登場する楽器は琵琶なのに、なぜかエレキギターやドラムのサウンドが聴こえる(ちょっとジミヘンとかっぽい)。つまり我々観客にはその音は聴こえているけど、スクリーンの中の彼らにはその音は聴こえていないということになる。なるほど彼らは「琵琶の音」に、我々が知っている「ロック」を感じているのか!と想像を飛ばせるのがすごく楽しいし、「時代もの×ロックフェス」としてとても面白かった。

時代の中に埋もれてしまった、「消された物語」を語る物語。彼らは自分で自分自身に名前を付けていくが、歴史上にその名前は残らなかった。後世に語られないだけで、誰の中にも物語はあるし、その背後には残せなかった/残させなかったものの存在があることも忘れてはならない....という話だと思った。資料集に残らなかった歴史の中に、こんな出来事があったのでは、と思いを馳せてしまう。「史実に則っていない」というわけでは無い。

でも、そんなことよりとにかくアニメーション・音楽を体験することの快楽についての感想のほうが大きいし、そういう作品なのだとも思う。そもそもが「表現を楽しむ/体感する」ことについての物語なので。確かに話は止まるのだけど、それを含めてショーとしての完成度が非常に高かった。

散る血飛沫に口元のアップ、なんか気持ち悪いものが気持ちいいところを刺激してくる不思議と気持ちいい作品。ケレン味たっぷりの湯浅演出、低音から高音ファルセットまでを自在に操るアヴちゃんの歌声も併せて楽しんだ。

私のオールタイムベストの一冊が、森見登美彦の『夜は短し歩けよ乙女』なのですが、あの文体だからこその世界観を見事アニメーションに投射して見せた湯浅政明監督はずっと信頼している(『映像研には手を出すな!』のアニメ化も見事でした)。今後の作品も楽しみ!

【追伸】劇中で披露される楽曲、中盤ではそのビートがほぼ『We Will Rock You』であり、さらに終盤の曲構成は『Bohemian Rhapsody』っぽく、随所にQueenを感じました。誰の趣味/方針なんだろう、と気になって仕方がない。自分の洋楽の原体験がQueenなので上がった。
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