Kachi

ドリームプランのKachiのレビュー・感想・評価

ドリームプラン(2021年製作の映画)
3.9
【前例を破るには前例を疑うこと】

原題はKing Richard. ヴィーナスとセリーナの父の名前がリチャードであることからだが、シェイクスピアの「King Richard III」を想起させるタイトルだ。(プロット含め全然内容は異なるため、単なる深読みだった)

鑑賞後、大坂なおみ選手が全米オープン決勝でセリーナ・ウィリアムスに勝利したときのスピーチが頭をよぎった。女子テニス界のことをあまり知らなかった私は、この作品をもって少しだけ大坂選手がセリーナ選手に勝ったことを申し訳なさそうにし、スピーチに臨んだ理由の一端を諒解した気がした。

It was always my dream to play Serena in the US Open finals, so I’m really glad that I was able to do that,” Osaka said. “I’m really grateful I was able to play with you. Thank you.

実際セリーナ選手は有言実行したのだ。


父リチャードは、日本人の目からすれば出来るだけ相手にしたくない人物であることは間違い無いだろう。ただ彼が成し遂げたことから何か一つを取り出すとすれば、前例を疑わなければ前例通りにことが運んでしまうという残酷な事実であると思う。

ジュニア選手権に3年間ものあいだヴィーナスを出場させなかったことや、ナイキからのオファーに簡単には応じなかったことは、彼女を一過性のテニス選手に終わらせず、中長期にわたって尊敬される人格者とするために彼がベストだと考えた方法の実践に他ならない。その教育の効果は、ヴィーナスとセリーナが出した結果が雄弁に語っている。
月並みだが、リチャードは子どもを子どもとして扱うべき時と、ひとりの人格者として扱うべき時を心得ており、母とともに劣悪な環境から子どもたちを守ることを以て常に良い親であった。


いくつか注文をつけるとすれば、リチャードが立てたプランがどのように練られたのかといった経緯が開陳されなかったこと。そして、全体を通して上手く行き過ぎているように見えることくらいであった。もちろん事実に基づく作品であるのだから、過剰な脚色は不要だが。
(もっとも、黒人であること受けた差別の数々はリチャード本人から語られており、それを以て十分に苦労したと見る向きもある)
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