つかれぐま

生きるのつかれぐまのレビュー・感想・評価

生きる(1952年製作の映画)
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あらすじを読む限りでは、正直古臭い印象が否めない。
ところが見事な4幕構成で、黒澤明はこの話をただの美談に終わらせない。最終4幕目の構成の妙。これが本作を傑作たらしめているので、初見の方は途中眠くても最後まで見届けて欲しい。

「死んでいるように生きている」堅物の渡辺がガンを宣告される1幕目が終ると、小説家(2幕目)と若い女性(3幕目)に翻弄されるファンタジーのように話は進む。この二人が当時のアメリカ映画によく出てくる、天国案内人や天使のような存在で、志村喬の重苦しい演技と対照的で面白かった。そして3幕目の最後に渡辺は「再生」される。

再生された渡辺の「雄姿」は4幕目の冒頭の1シーンのみ。次のシーンではもう彼のお通夜。渡辺が死の直前に何をしたかが、参列者の証言によって明らかになっていくのは『羅生門』と同じ構造だ。この構成の妙で、一人のヒーローによる美談ではなく、参列者の姿を借りた様々な人間性描写と普遍性のある人間観へと深みが増していく。なによりこのほうが映画的で俄然面白い。

珍しく三船敏郎がいない。
彼が演じる「超人」を必要としない作品であり、その存在がむしろ作品世界のスポイラーになってしまうからだろう。どこにでもいる小市民と小役人。そういう市井の人々を描いた傑作。