Ryu

陸軍のRyuのレビュー・感想・評価

陸軍(1944年製作の映画)
3.6
幕末からはじまり、日清・日露戦争を経て第二次世界大戦に至る間のとある家族を描いた作品。戦時中の1944年に公開された。

冒頭に「陸軍省後援情報局國民映画」と表記があるように、陸軍省の依頼により製作された作品です。
やはり当時の日本国の風潮には現代人の感覚からしたら理解し難いです。武功を立てて名を残そうなんて考えるな とか、質素質素 言わせる割には日本国や天皇のことは奉らせる。国としては高慢なんだけど、国民には謙虚にいけって無茶苦茶だと思うんですがね。男の子は天皇からの借り物だったり、自分とこの息子ばっかり心配すんな って怒られたり、日本が負けるニュアンスなこと言うだけでボロカス言われたり、やはり陸軍省が依頼してるだけあって、当時の国の姿勢や風潮を感じる描写が多かったです。
しかしながら今作、所々に本来の“戦意高揚”という目的からは外れたような描写がなされており、特にラストの出征する息子を追う母のシーンは圧巻です。セリフがない中での長回し。口では出征に喜ぶようなこと言ってるけど、心から喜ぶ母親なんていないんだ という強いメッセージが伝わってきました。このシーンは実際に出征していく兵士だそうで、その兵士たちと母親も同じような気持ちだったんでしょうね。それにしても検閲には引っかからなかったんですね。検閲官がそこまで感じ取らなかったのか、黙認したのか。個人的には後者であってほしいです。でも結果、監督の木下惠介は情報局からにらまれたらしいです。
基本、軍国主義なテイストなんですが、最後の最後で一気に反戦に傾きました。今作がつくられたのが戦時中であるということを含め、非常に歴史的価値のある作品だと思います。
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