ぬ

ガリーボーイのぬのレビュー・感想・評価

ガリーボーイ(2018年製作の映画)
4.3
いい映画だった。
まず第一に映画内で使われている楽曲が良くて、ヒンディー語とHIPHOPとの相性は抜群て感じで、音を聴いているだけで韻を踏んでいるのはわかるし、オリジナルの言語がわからなくても耳で曲を楽しめるのが良かった。
いわゆるボリウッド映画のようにキラキラ衣装で踊りまくる!みたいなシーンはないけど、しっかりと音楽を楽しむシーンはたくさんあって、さすがインド映画という感じ。
むしろ、きらびやかな衣装を買えないスラム街で生きる主人公たちが、自分の内側から湧き出てきたリリックと仲間の作ったトラックで「生き延びるための音楽」を生み出して、自分の居場所を見つけるために歌っているというのは、キラキラ幻想的なぶっ飛びボリウッド映画に負けないパワフルさで、その対比も面白いんじゃないかと思う。
もちろん、そんなキラキラボリウッド映画も面白いけど、インド映画のパワーやインド映画の音楽シーンの良さはそれだけじゃないと気づかせてくれる良さがあった。

スラム街で生まれ育った主人公ムラドは日々の怒りや嘆きをリリックにしノートに書き綴っており、そこから徐々にラッパーの道を駆け上がっていくのはエミネムの8 Mileさながらって感じ。
格差や児童労働、男女の不平等さといった部分も描かれていたり、主人公を描くと同時にインドの社会問題も結構しっかりめにバランスよく取り入れているところがよかった。
海外からのツアー客が見世物感覚でカーストの低い主人公の家に観光に訪れるのも衝撃だった。
でもそれは主人公の友達が行っている犯罪行為と同じで、「それが正しくないとしても、日々の生活を食いつなぐために、稼ぐためにやらざるを得ない」という状況なのだと思う。
正しさを追い求めていたら就ける仕事なんてなくて、文字通り生きていけなくなってしまう世の中は、正しさの価値や正しさを信じる心を壊すよね。
この映画に出てくるような、子供に悪い仕事を手伝わせたり、車を盗んだりという犯罪は、犯した罪だけを見ればひどいし正しくないし行為だけど、そういう犯罪に手を出した人の中には、今日食べるものすら買えるかわからないほどどうしようもなく困窮して、世の中から正しさを信じる心を折られた人たちもたくさんいるのだろう。
それでも許されることではないけど、本当にそういった犯罪をなくしていきたいなら、罪を犯した人を責めるだけでは根本的な解決に繋がらないよなぁ、と思った。


あと主人公も、主人公の恋人もティピカルなキャラクターではないのも面白い。
主人公のムラドは1993年生まれ設定なのだが、演じているランヴィール・シンは公開当時34歳くらいなので、やたらと貫禄があり、そこも含めてなんかよかった。
対してアーリヤー・バット演じる主人公の同級生で恋人のサフィナは、家はお金持ちだが結婚や身なり、学問の自由はなく世間や親の言う通りに生きることを強いられている。
しかしカーストの格差を気にもせずムラドのことがめちゃめちゃに大好きで情熱的で、開業医になることも好きな人と一緒に生きることも諦めない姿はとてもかっこよかった。
若干血の気の多さにビックリしたけど、特にインド映画のヒロイン的立ち位置のキャラクターでこう言う女性像は見たことがなかったので面白かった。
ラブストーリー的なこじれに関しては、「自分の過去を知らない相手」や「自分の知らない広い世界を知っている人」、「自分を今いる場所から連れ去ってくれそうな人」に心奪われてしまった結果なのだと思った。
なんかその辺は、また違うんだけど、なんとなく『コントロール』で描かれていたJOY DIVISIONのイアン・カーティスの恋愛関係周辺について思い出したりした。
ぬ