空海花

山中静夫氏の尊厳死の空海花のネタバレレビュー・内容・結末

山中静夫氏の尊厳死(2019年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

安楽死と尊厳死
その違いはニュアンスでは何とでも言えるが
映画でどう答えを出すのか。

この映画については全く知らず
違う映画を観に行くつもりが、
この日までだったのと前述の問いが気になって鑑賞。


末期の肺癌患者を中村梅雀
呼吸器内科医師を津田寛治が演じる。
ターミナルケアの医療。ホスピスではない。
治療はできる限りは、やる。
がん拠点病院で緩和ケアもある病院という印象。

「楽に死にたい」を何度も言う患者。
一見わがままにも聞こえるけれど
梅雀さんはどこか童子のようなかわいさがあって憎めない。
津田寛治演じる医師は、病院では患者に理解があり、患者の要望もなるべく尊重しようとしてくれる。面倒くさい顔一つ見せない。人格と経験が生きた優しさ。
テーマとは別に、津田寛治好きな人は必見。


「楽にしてほしい」は
イコール「死にたい」ではない。
苦しんで死にたくはないだけで。
できる限りの辛さや痛みを取り除いてもらって
本当に苦しくなるその時まで
最期まで生きようと頑張っている。
でも、それは医師との信頼関係ができたからで
おそらく当初のものとは変化している。
腹水を取り除いてあげると
「楽になったぁー」という梅雀さんがかわいくて愛おしくなって涙が出る。
同級生に手を振る梅雀さんもめちゃくちゃかわいい。
そしてその後の表情にノックアウトされる。

タイトルでは、尊厳死の前に患者の名前があるように
終末期の治療は個人によって異なるもの。
山中さんは故郷の信州で死にたいと思ったし
とにかく何が何でも個室が良かった。
婿でずっと堅苦しい思いをしていたから
最期くらい、そしてあの世に行ってからは
もうそんな思いをしたくなかった。

今井医師はこれまで何人もの患者を看取ってきていて
その経験は患者への優しさに活きるが
もう一方でその経験は鬱病を発症させる。

息子との短い会話。妻はもっとちゃんと話してと言うが、
優しさは病院で使い切って帰ってきてるとこぼす。
でも邪険にしているようには見えないけれど。
患者は尊重して
息子は信じている。

人によって、人の死に立ち会える人数が決まっているみたい
心療内科の医師の台詞にある。
死は仕方ないけれど、大きな負のエネルギーで
心身にダメージを残す。
大変な職業だと本当に思う。
たまにはクールにあしらってくれてもいいよ。

津田寛治は役作りで相当痩せた。
その佇まいであんな優しい表情をするなんて。
色んな役を本当に何でもこなすが
この演技は中でも最高だった。

それは看護師も、山中さんの奥さんも
今井の妻も、同級生も
みんな演技の中に優しさを見せる。
でもやっぱり今井医師と山中さんの会話が一番いい。

人は生きてきたように死んでいく
真面目にコツコツやってきた人は
穏やかに死んでいける。

今井医師が立ち直っていく姿にも静かな感動が押し寄せる。


病気ものと言われ敬遠されそうではあるが
その中で別のことを頑張る類いではなく
それを通じて終末期の在り方をまっすぐに描いている、と感じた。
山中さんの人生のように筋が通って、穏やか。
みんないい人過ぎる感はあるが
お涙頂戴というよりは
ところどころでホロリとなる物語。


2人に1人は癌になるという時代、
この問題は医療を提供する側も受ける側も
きちんと考えておかないと、
どうしようもない状況になりかねない。

「楽に死にたい、苦しくなったら薬を使ってほしい」
尊重されるものとしては
人工呼吸器は使わないとか、
蘇生は行わないとか、その他に
鎮静(セデーション)というものがある。
胃カメラの時眠くなるやつではなくて
ターミナルセデーションと呼ばれるものだ。
そこは詳しく描かれなかったけれど
本人や家族、そして医師や看護師とも
考え方にはズレがあるはずで
それは知っておいたり、できれば話したりはしておいた方がいいだろう。
誰だって苦しんで死にたくはないし
苦しませて死なせたくはない。
それでも立場が異なると差は出ると思うのだ。
この物語では〈生きてきたように〉に内包されているが、
現実に思いを馳せずにはいられない。

そしてこれはあくまで山中さんの場合。

当初の答えはわかったような気がするが
では何を尊重しようかというと
自分はまだ少し若いのでまた違う訳で
さて、どうしますかね。



2020劇場鑑賞63本目/64


そしてここにも作家が医師の原作。
著者も鬱病になった経験があるようだ。

さすがに場内に若い子はいなかった。
空海花

空海花