Rick

アラビアンナイト 三千年の願いのRickのレビュー・感想・評価

4.2
 人は、物語を通じて様々なことを知る。昔々の遠い歴史を、メルヘンチックなお伽噺を、何かしらの教訓めいたものを、そしてそこに愛があったということを。また同時に、人は物語る生き物である。辛い過去を、楽しかった思い出を、今いる場所を、未来への希望を語るのだ。それはきっと、全てを理性で捉える科学の時代においても変わらない。誰にも邪魔されることのない、自意識という部屋の中で、甘く美しく、時に恐ろしい愛の物語に浸るのだ。理解できない虚しさや、埋められないほどの寂しさ、耐えられないほどの孤独を抱きながら、時折現れる自分のためだけの物語と共にいつまでも、いつまでも幸せに歩んでいくのだろう。
 物語にまつわる物語は数多くあれど、ここまで飲み込むのに痛みを伴う作品があっただろうか。物語の魔法を信じたいのに信じ切ることができない、むしろ誰よりも信じているからこそ、物語の呪いにも向き合わなければならなかったのではないか。信頼できない語り手が語る甘く寂しい愛の物語には、安直なカタルシスはない。突き抜けることなく、生々しい傷をそのまま見せてくるような口触りである。エキゾチックで華美な見た目に騙されることなく、物語を語ることの苦味を味わうといい。
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