みかぽん

天才たちの頭の中~世界を面白くする107のヒント~のみかぽんのレビュー・感想・評価

3.8
同じ質問を投げかけ続けて30年。凄いなぁ(汗)。飽きっぽい私には及びもつかない執念だわ💦
その長い経過のうちに結構な方がすでに鬼籍に入る、あるいは高齢からその姿をおみかけする機会もめっきり減ってたり、、なので、そういう意味でも懐かしく、貴重なドキュメンタリーだった。

Why are you creative?
なんかザックリで平坦な質問…。
にも思えるけど(質問の)意図を狭めず自由に語って貰う方が返って面白い答えを引き出せることもある。が、個人的にはこの質問の後に「創造力は世界を変えられるか?」の問いが加わってからの方が俄然、面白くなった。
ザックリと頭に残っている彼らのコメントは(人々が矢継ぎ早に現れてクリエイティブをダーっと語り続けるので、一語一句に厳密な正確さを求めないでね…😅)タランティーノの「普通の人よりちょっとだけ優れたギフトを与えられただけ」の割と普通な回答や、Netflix CEOの「子供の頃には誰もが持ち合わせていたんだろうけどね」。あるいはジャームッシュの「人と異なる方向で見てしまう自分の性分」の返しにはなるほどね、と頷き。あるいは「必然であって、今の仕事を選んでいなければ恐らく私は死んでいたかも」と話すシャーロット・ランプリングの生の声に、創造力(才能)は与えられた人間にとって諸刃の剣であるのかもと感じたり。。
我らがヨージヤマモト(山本耀司)は「(それを持ってしまったがために)止まらない列車に乗せられた気分だ」の答えは、アレクサンダーマックイーンがそこから飛び降りた(自死した)事実が重なって心が痛み、同じデザイナーのヴィヴィアン・ウエストウッドの「創造力だけで世界は変えられないけど、その力にはなる。当然、政治家よりはね。最もクリエイティブでないのは彼らでしょ。目先の票にだけ執心し、自らは何も変えようとはしない」の語りには大きく共感した。

自身の体験が深く反映されているパートもあった。ジャンヌ・モローの「クリエイティブは表現を発信する力だけど、もしそれが出来なくなったら?誰もが押し黙り沈黙した暗黒の世界をかつて私は経験した」の語りには、多感な年頃にパリをナチスに侵略された戦争の記憶が色濃く滲んでいた。(↓これには鑑賞前にWeb配信されていた是枝監督が憮然と語る舞台挨拶のニュースと重なり、心が大きく揺れた)
https://www.kanaloco.jp/article/entry-205256.html

同じく、ダライラマ14世は「創造力がネガティブな方向に傾く流れは止めなくてはならない」と語り、アラファトは(おそらく停戦合意されていた時期のインタビューだったのか)現状を維持、継続させる努力への創造性の発揮についてを語っていた。

パパ・ブッシュは質問に対し「質問の意味が良く分からない」と聞き返し、補足質問でようやく理解すると、自身がいかに東西冷戦(=雪解け)の立役者となり得たかを語っていたが、そうした政治家らしさもなるほどね的で面白かった。
あとホーキング博士の「2つ目の君の質問はナンセンスだ。何故ならば…」と実証を加えて展開し始めるところが科学者らしくて、これもまた興味深かったなぁ。

ボウイは同じ質問を間を開けて何度か受けていて、その回答の中で、17歳の時にハインリヒ・ハラーの「チベットの7年」を読み、外界に全く接触がなかった世界に飛び込んだ主人公と、彼に関わるチベットの人々とその国の行方に強い衝撃を受けた話を語っていた。
当時のロンドンにはチベット仏教の寺院があり、傾倒していたボウイは出家の意思を寺院の管理者(○○リンポチェと話したので、亡命した高僧?)に伝えたところ、「〝あなたの仕事は歌を歌うことです〟って断られたんだ」と語るエピソードはなかなか良かったです(笑)。

クリエイティブは多様性であり一方で異質だが、そのベースには受け取る側の寛容さも不可欠だ。それを排除したり抑圧する方向に世の中が傾き、推し流して行った先には何があるのか。そして〝クリエイティブな人々〟は果たしてどう生きて行くのか…。
この映画は分水嶺というか、まさに今、公開されるべくして公開された作品と思った。そして鑑賞した我々は、自分の足元や周辺を注意深く観察してみる必要があるかも知れない。
みかぽん

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