ちぇり

hisのちぇりのネタバレレビュー・内容・結末

his(2020年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

ずっと前から気になってい作品をやっと視聴。ゲイ同士の恋愛だけど、片方に娘がいるという少し変わった状況設定で、同性愛や同性婚を取り巻く世間の現状と、父親と母親の親権争いという二つのことを主にテーマとしていた。
「性自認」なんて言葉がLGBTQ+を語る時によく使われて、以前の私も「その人自身が自認する自分の性」くらいの感覚でこの言葉を使っていたけど、そもそも自分の性はこれだ!なんてみんな明確に言うことは出来ないのかななどと。渚もゲイとして高校・大学と迅と付き合ってきたけれど、仲良くなった女の子への感情を愛情や恋愛だとも交錯していて、だからこそ異性婚という経験も経ている。空を連れて突然やってきた渚に迅が「お前バイだったの」と聞くシーンがあるが、渚はそうだとも違うとも言わない。多分自分でもよく分かっていないのだろう。だからこそ玲奈との結婚生活の途中に他の男と浮気してみたりすることで自分の性が何なのかを探ろうとしたが、結局は女でも、男でもなく、迅という個人に行き着いたのだろう。男が好きだからゲイ何じゃなくて、迅のことが好きだからゲイなんだという帰着。
迅も初めは突然現れたかつてのパートナーとその娘に戸惑いを隠せないが、6歳の娘の純粋さに導かれるように2人はかつての、もしくはそれ以上の愛情と結託を育んでいく。
この映画の中で明らかな差別者として描かれるのは、玲奈の弁護士と母親。玲奈自身は夫である渚の突然のカミングアウトと裏切りに怒りと驚きを隠せないが、私には玲奈のこの感情は性差別と言うより、単なる信頼した相手からの裏切りに悲しんでいるように見えた。どちらかというと玲奈はバリキャリの先進的な女性で、親権争いの論点も相手がゲイカップルという環境で娘を育てられないというものよりも、仕事と育児を両立して自分の手で娘を育てたいという、自分の娘への愛着からくるもののようにみえた。まあそれが難しい日本社会の現状への批判もあるし。玲奈が外で働き、渚が専業主夫をするという設定も先進的なものであるが、バリキャリの玲奈がシングルマザーとして1人で生活していくことの難しさや世間の圧なども作中で散りばめられていた。特に玲奈の母親はいわゆる「古い価値観の人」(作中の玲奈の言葉をそのまま使って)だから、玲奈も空の子育てにあまり母を関与させたくないと感じていたのだろう。とはいえ自分一人で全てを背負っていくには負担が大きすぎる、彼女も彼女で四面楚歌な状態だった。
空の親権争いをすることによる、代理弁護士同士のそれぞれを責め立てるような議論に辟易としただ無駄に心の傷を負うよりも、かつての夫婦2人で折り合いをつけて最適を探す。2人が意地を張らずに互いのため、そして空のために一番のことをしようと考えた結果があの結末なのかと思う。
Netflixで鑑賞したが、このアプリのあらすじ書きにあるような「春休みに江ノ島に来た男子高校生の迅と〜」という2人の出会いの部分に関しては映画に全然出てこなかったように感じるので、配信の段階でカットされているのはもしくは原作小説などにしか無い描写なのかが気になる。
ちぇり

ちぇり