keith中村

シン・ウルトラマンのkeith中村のレビュー・感想・評価

シン・ウルトラマン(2022年製作の映画)
5.0
 1テラケルビン!
 この台詞に痺れましたので、謹んで満点を献上いたします。
 
 私はセブンの放送期間中に生まれたので、物心がついてリアルタイムに視てたのはエース、タロウ、レオ。
 そこでいったん終わっちゃって、5年生のときに新作ができたんだけれど、これがアニメ作品だったので、「なんだ。アニメかよ」と見なかった。いや、当時「アニメ」なんてもう言ってたっけ? 「マンガ」つってたかも。
 80は実写作品に戻ったんだけれど、「6年生でさすがにウルトラマンはないでしょう」みたいな感じで、やはり見なかった。
 ただ、リアルタイムじゃなかったマン・セブン・帰りマンは小学生の間しょっちゅう再放送してたので、たしか午後4時から2本立てだっけか、たぶんほとんど見てる。
 怪獣カードは集めましたよ。ただ、あれを貼るアルバム? はお金持ちの子供しか持ってなかった。もちろん私も持ってなかった。
 
 そこからウルトラマンを再訪することはなく、次に意識したのが大学1年の冬。
 私は映画研究部にいたんだけれど、「帝都物語」の公開時に「実相寺監督の新作だ!」と興奮して騒いでた先輩がいたので、「実相寺って誰だ?」と思い、調べたところ、なんとまあウルトラシリーズでさんざんお世話になってたお人じゃありませんか。
 しかも、調べると実相寺監督の回はほぼ全部覚えてた。
 スカイドンの時のスプーンでの変身シーン。あれ最高だったよなあ。あれも実相寺さんだったんだ。
 んで、実相寺回だけを再編集した79年劇場版はだいぶ後で観ました。

 とまあ、こういった作品をレビューする上で必要と思われる仁義をまずは切らせていただきました。
 私とウルトラマンの関わりはそんなくらい。
 濃くも薄くもない。たぶん同世代の中ではいたって標準値。
 大吉先生や喬太郎師匠ほどは熱くない。
 
 でもまあ、庵野さんの3つめの「シン」だし、観ないわけにはいかないじゃないですか。
 前作2つの「シン」が最高だったしね。
 
 今観てきました。
 やっぱシンゴ、シンエヴァよりは落ちるかなあと思ってたんだけど、冒頭に書いた「1テラケルビン」のセリフにやられまくったので満点になりました。
 
 いや、マンで言ったら何つっても最高のカイジュウはゼットンなわけですよ。
 んでもってゼットンといえば、1兆度の火の玉ですよ。
 その証拠に「1兆度」をググってごらんなさいな! 1ページ目全部ゼットンなわけですよ。
 ヒット数は「約45,300,000件」。もちろんすべてがゼットンじゃないだろうけれど、それでもとにかく30年にも満たない日本のウェブサイトの歴史において、ネットがなかったそのさらに30年前の、それも歴史や事件ですらない「ゼットン」がこんなにヒットするって凄くないですか?
 
 「1兆度」
 凄いですよね。子供の大好物。パワーワード。いや、バカーワード。
 子供は平気で「百億万円」とか言います。
 なんたって、山本直純さんが「大きいことはいいことだ」って歌ってた時代ですよ、あ~た。(←わからない人は親戚のおじさんやおばさんに訊いてね!)
 
 ただ、ね。子供だって、1兆度に対して「んなわけあるかい!」とかは思ってたんですよ。
 これ、柳田理科雄さんもたしか1冊目の著書で突っ込んでましたよね。
 だから、本作を観てると終盤にかけてゼットンで終わるんだって読めてくるんですよ。
 
 そしたら、観てるこっちは、「ああ、1兆度だ。あの馬鹿ワード出すつもり?」ってなるんですよ。そこまでまあまあ没入して観てるんですわ。庵野さんが監督すりゃいいのに、樋口さんに任せちゃって大丈夫? と思いながら観てるんだけど、全然悪くないじゃん! 樋口さんいい仕事してんじゃん! ちょっといちいちカットが凝りすぎてて見づらいわ! とも思うんだけど、そこも実相寺オマージュだったりATGオマージュだったりと好意的に解釈してるんですわ。このCG時代にあえての「リアリズムよりは円谷特撮を実写の10分の1くらいの巨大セットで撮影したらこんな感じになるだろう」くらいの虚構感のある絵作りも最高だしね。
 あとゼットンとゾフィーの役割の再定義とか、全体的な掘り下げ感も素晴らしいんですよ。
 私、映画における電話シーンで、「何? ゴジラが東京湾に出現しただって?!」みたいな現実にありえない説明ゼリフは唾棄すべきと思ってるんだけど、本作ではそれも頻出する。でもそれも「わざと」でしょ? だから、本作はそこも好きだった。
 だのに、ここにきて最終的に「1兆度」ですよ。
 この映画、台無しじゃん! って思った。1兆度、ダサっ!
 
 したら、ハヤタ(じゃなかったね。工くん)が、まず「1テラケルビン」っていうじゃん!
 本作はいろんな形で現代に作られる映画としてのアップデートがなされてましたが、その意味でも「1テラケルビン」はこのデジタル時代ならではの最高のチューニングじゃない? こんなメガだギガだテラだいう前の時代なら、言ってもそこそこ「1トリリオン・ディグリーだ」みたいな、聴いてるこっちが「はぁ? それ、具体的に何度やねん!」みたいな、いわば「パラダイム・シフト」型「コンセンサス」型ウザい横文字みたいな、「お前、面倒くさいやっちゃな! フツーに日本語で言えや!」ってなるじゃないですか?!
 でも、本作は「1テラケルビン」なの。
 「テラ、わかるよ~! うん、俺も外付けドライブ、2年前にようやくテラにしたしね! もう、ギガの時代じゃないもんね。ケルビンも知ってるよ~。マイナス273.15度だよね! アシモフ先生のエッセイで読んだよ! マイナスはそこまでしかいかないんだよね。でも、プラス側は理論上は無限大なんで、1テラつまり1兆度はあるよね! 理科雄さん茶化してたけど、おれ、アシモフ先生に教わってたもんね! あと、日本の数字区切りは4桁ずつだけど、英語や国際単位は3桁だから、全然合わないけれど、最小公倍数ではじめて一致するのが1トリリオン=1テラ=1兆ってキリバン(←じゃないけど)だもんね!」と、もうここに惚れました。
 だから、イデ隊員(じゃないか)が、それを受けてようやく「1兆度」って馬鹿ワード出しても、全然大丈夫!
 これ、地味になかなか凄いですよ! だから本作は満点なんです。
 
 あと、やっぱ劇場で観る体験のいいところもあった。
 ららぽーと豊洲で観てると帰り道が長いのさ。
 私の少し前を歩いてるのが、20代のアベック(←わざとウルトラ昭和ワードで表現してみた)だったのね。
 で、男の子のほうは「UM」とか「nebula M78」とか書かれたトレーナー着てて、ユナイテッドシネマの袋も持ってるのさ。多分、パンフやグッズを買い込んだんだろうね。
 で、その子が言ってるの。
 「ゾフィーって、命がふたつあってぇ」とか、言ってくれてるの。
 彼女さんにめっちゃ説明してあげてるの。
 もう、こんなん、素晴らしい光景すぎません?!
 「君、若いのに、大したもんだよ!」って、やおら歩み寄って握手したくなりましたよ。せーへんけどんね。
 
 だから、そんなのも全部入れて、満点なんですよ!