よしまる

一人っ子の国のよしまるのレビュー・感想・評価

一人っ子の国(2019年製作の映画)
4.2
 友人とのオンライン上映会にて。自分ではまあ選ばないであろうドキュメンタリー。

 中国でつい最近2015年まで行われていた1人っ子政策。2人目は産んじゃダメですよ〜て誰もが知ってる史実。

 最初はフムフム、そんなふうにプロパガンダされて大々的にやってたんだなぁ〜、なんて観ていたら、だんだんヤバみが増してきて、その闇の深さにとにかくビビるしかなかった。

 中国で生まれ、アメリカに渡った女性監督が子供を連れて母と子の2人きりで取材と撮影を敢行。周りにはカメラや照明といったスタッフも居なくて、本当に自分でホームビデオで撮ってきている。このため彼女の姿が観られるのは実家で家族といるところくらいで、ほかはあえて鏡に映したりする程度。それがこの取材旅行の難しさと際どさ、つまりリアリティを底上げしている。

 編集の妙かもしれないけれど、闇が次第に解き明かされていく構成も見事だ。

 ここから先、自分の備忘録も含めて描かれている内容を書き留めたいのでネタバレとなるかもしれない。何も知らずに触れてみたい方はご覧になられてからまた帰ってきてくださいね。











 1人しか産めない、2人目が出来たら中絶させられる、もしくは2度と産めない身体に手術させられる。
 そこまでなら、まあ、わかる。

 古くから男性優位な家長制を重んじる中国では、女の子よりも男の子が生まれないと意味がない。そう、意味がないのだ。
 だから女の子が生まれるとそっと山や川に捨てる。それは男の子が生まれるまで繰り返される。

 捨てられた子供は当然、死ぬ。ウジが湧いたり、野生の動物に食べられたりする。
 段ボールやカバンに詰められて捨てられた赤ん坊の写真がいくつも登場する。唖然として見つめることしか出来なかった。

 幸いにも拾われた赤ん坊は施設に送られる。けれどもそれは身寄りのない子を引き受ける孤児院などではない。海外から買い付けにくるバイヤーへと売り渡すための人身売買所だ。

 捨てられた子供はどこへ行くのか、生きていればどこにいるのか、そんな素朴な疑問を調べれば調べるほど、闇が深くなっていき…
 あれ?これってとどのつまりは、国が子供を売ってるんじゃないの⁉️というところまででちょっとボヤかして映画は別の場所に着地して終わる。

 それはそれでまあちょっと良い話、みたいに終わるんだけれど、そこのところはさすがにアメリカに渡った人がAmazonで作った映画だな、という印象。

 それにしても、だ。信じられないとは思うけれど100年も前にはこんなこともあったんだよと言うのならまだしも、わずか7年前まで間違いなく行われていた政策が、こんなスパイラルを生み出していたことには衝撃しかない。しかも、それを誰しも不思議に思わず、口を揃えて「仕方がなかった」として承服している恐怖。

 主役兼監督のナンフーワンは、アメリカでは中絶は許されないが、女性の権利を奪っているという点では中国と同じではないか?と疑問を投げかける。
 そこにはキリスト教など避けては通れない宗教の問題もあるけれど、個人の尊厳、社会の形成、子孫の繁栄といった様々なことを顧みるにはあまりに重い。

 実際のところ「1人っ子の国」は繁栄を取り戻したのか、多くの犠牲によって未来は救われたのか、中国側の検証が良いも悪いもまったく描かれてないのは一方的で残念に思う。それでもこの映画を世に送り出したことへの賛辞を曇らせるものではない。