Ren

マリッジ・ストーリーのRenのレビュー・感想・評価

マリッジ・ストーリー(2019年製作の映画)
4.0
離婚映画として『クレイマー、クレイマー』以来の傑作、というような評もあるようだけど、個人的には舞台が現代である点と離婚における衝突を妻・夫の双方から照射している点でこちらのほうが好みかもしれない。もちろんどちらも素晴らしいのだけど。

会話主体のドラマとして、台詞が面白く(コメディという意味ではなく)聞いていられるのはありがたいし正しい。脚本が抜群に面白い。
冒頭、夫婦が互いの良い所をダイジェスト的に羅列するシークエンスでしっかり掴まれた。今後本編では触れられなさそうな2人の性格を一気に紹介すると同時に監督の人物描写大喜利力アピールとしても高性能。そのセンスはちょっと坂元裕二っぽいとも思った。

弁護士は要らないか....とか、裁判はやりたくない....と言っていた2人が、法の介入によってはっきりと対立していく怖さ。穏便に穏便にと望んだはずのことが、互いに使える手札はなんでも使う勝ち/負けへ変貌していくのは、真理でありながらゾッとする。
ニコール(スカーレット・ヨハンソン)とチャーリー(アダム・ドライバー)が神妙にしている横で互いの弁護士が饒舌に言い合う光景。線形的で二元論の世界と、一度は愛し合った夫婦の簡単に白黒では決められない非線形な心情がラストまで対比されていく。
弁護士が日常の些細な過ちや発言すらも利用して勝ってやろうと息巻く裏側で、ニコールとチャーリーは会って髪を切ってあげたりなんてこともする。

白眉はニコールとチャーリーの長尺口論。映画として熱量が最高潮になるシーンであり、それまで観客がなんとなく抱いていた2人への腑に落ちなさや鬱憤のようなものが膿のようにドバッと吐き出される、ある種の気持ち良さもある不思議な名シーン。文脈的には理路整然としていない会話だけれど、ひたすらに剣幕と熱量で映画を整理する。スカヨハとアダムの激情型演技の魅力が全て詰まっていた。

結婚は一人ではできない。出会った(出会ってしまった)以上、たとえ愛が覚めたとしても、出会った頃の感情も一度は一緒になりたいと思って入籍した事実も完全にゼロになることはないというのが結婚であり人生であるということを描いたドラマ。離婚という選択で結婚が消えるわけではないという意味で、タイトルのMarriage Story(結婚の物語)も腑に落ちた。

その他、
○ 停電で閉まらなくなった家の門を閉めるニコールとチャーリー。共同作業で2人の間を断絶する(門を閉める)のは、離婚調停の隠喩。
○ チャーリーの新しい部屋の謎間取りと壁一面が白の無機質さが少し怖い。黒沢清作品かと思った。
○ 調査員がチャーリーとヘンリー(アジー・ロバートソン)の生活を監視するシークエンスの居心地の悪さ。普通に息子と暮らしたいだけなのに、一挙手一投足が裁判のネタになるのではという嫌さ。調査員役の俳優の発声がボソボソなのも何かイヤだ。
○ 2020年アカデミー作品賞ノミネート、あと2作観ていないのあるけど今のところ全部当たり。
Ren

Ren