このレビューはネタバレを含みます
報道で聞いて他人事だったシリア内戦。
噂になっていたドキュメンタリー作品を鑑賞しましたが、言葉になりません。
アラブの春と言われる民主化運動が、シリアにも広がり、比較的平和的な学生運動が行われているアレポの学生ワアド・アルカティーブさんの撮る映像が発端に、戦時下のアレポ活動家で後にパートナーになるハムザさんとの生活が綴られていました。
順調な活動により、自由を手に入れ、喜ぶワアドさんと仲間たち。惹かれ合うふたりのささやかでも幸せそうな結婚式。新居の幸せそうなふたり、授かった命に喜ぶふたり。産まれたサマちゃんの愛おしさ。
そこに、政権の人権弾圧による集団虐殺、政権と手を組んだロシア爆撃機の住宅地への爆撃。一家も例外でなく、安全な病院へ引越しますが、撮影中も激しい爆撃音が止まりません。そこでもスヤスヤ眠るサマちゃん、決して泣かないサマちゃんに悲しさが湧いてきます。
病院へは爆撃で大量の負傷者が運ばれてきます。ほとんどが重症で、既に亡くなった方々、子供も多数。子供を亡くした母が「これを撮り続けて!これを世界に伝えて!」的な言葉を叫びます。
意識のない重症の妊婦から帝王切開で取り出した新生児。既に脈がなく、医師達が必死に蘇生を試みます。諦めずに、何回も何回も。そして奇跡が。
事態は悪化し、安心だと思われていた病院をピンポイントで爆撃する様になります。病院の数台の監視カメラが一瞬で、映し出されている患者、医師等と一緒に爆風で消滅したのには、恐怖と怒りの気持ちでいっぱいになりました。
そして降伏。ヒヤヒヤしましたが、一家が無事に脱出出来て、心底、安心しました。
ここまで惨たらしい事態になるのには、理由があるのでしょう。しかし、子供を含めた一般人が犠牲になって良い正義なんてあるはずはありません。
これだけの作品を世界に発信した一家のその後の安全が心配でしたが、公式ホームページによると、一家でロンドンに移住して生活しているとの事で、エンディングロールに使われていた笑顔の写真は、ロンドンでの近況みたいで、安心しました。