きゅうげん

グリーン・ナイトのきゅうげんのネタバレレビュー・内容・結末

グリーン・ナイト(2021年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

ここ数年でも屈指の大傑作ハイ・ファンタジー映画!!!
監督のデイヴィッド・ロウリーといえば『セインツ 約束の果て』『ピートと秘密の友達』『さらば愛しきアウトロー』など、クラシカルな話をモダンに撮る名手。
とくに『ア・ゴースト・ストーリー』は文字通りな幽霊譚ながらも、ソリッドで現代的なアプローチを試みた新たな名作。個人的にも大のお気に入りです。
そんな監督が、ついにファンタジーでも古典の中の古典、『サー・ガウェインと緑の騎士』に挑戦。

『緑の騎士』はトールキン版が広く知られていますが、内容としてはキリスト教的倫理観&崇高な騎士道精神と、そんな規範意識への挑戦としての臆病・貧欲や不貞の誘惑、という典型的なモラルテイル+貴種流離譚です。
しかし一方で、飛躍的・覚醒的な成長を見せる英雄譚ではなく、自戒を重んじるヒューマニズムな一面があったり、奥方とガウェインとが騎士道物語へのメタい会話をしたりと、イマドキな一面も。
“今ここ”の神話としての現代的な再構築に、オリジナルの持つこの側面は大きく寄与していると思いますし、なによりもロウリー監督の作家性にとてもかなっています。
腰巻きをとるラストの改変は英断。

それと、中世ブリトンの題材でインド系英国人が主演を務めたのも大事。
奇しくもトールキン繋がりで『力の指輪』の配役が俄かに話題になったのは記憶に新しいですが、神話的な物語の再生産こそコンストラクティブであるべきですし、一般化や遡及性の強い故事をいま改めて語る理由は、それを鑑賞する人々が多様であるからにつきます。

文芸的な洒脱さはそのままに、お伽話なセンス・オブ・ワンダーも炸裂してる、最高のファンタジー映画です。
噂によるとマットペインティングとか強制遠近法とかローテクも駆使してるとか……スゴすぎ。


※追記
この“緑の騎士”というモチーフ、ドイツから北欧諸国やイギリスの諸地域などに至る広範な(主にケルト)文化圏に登場する「ワイルドマン」という類例に通じるところがあるのでしょうか。
ワイルドマンとは、聖霊降臨祭にて植物で装飾した(“緑”をモチーフとした)男性人形に対して擬似的に戦闘・殺害し、五穀豊穣や社会安寧を祈念する年中行事です。

これは再生を願う民族儀礼としての「生命を象徴するものとの接触・接種」というテーマは勿論のこと、「権力者を共同体の犠牲(スケープゴート)とする」=「“王殺し”の概念」という側面がとても重要。
この“王殺し”、あくまで管見の限りの類例ですが、シェークスピアの『ハムレット』とそれに通じる多くの大衆演劇・民俗芸能の一例がモデルケースとしてとても多弁で、年中行事としても社会秩序としても“王殺し”がいかに重要視されていたかがわかります。
本作『グリーンナイト』も王位継承の話です。年老いたアーサー王と若き後継者ガウェインの世代交代は、“緑の騎士”の斬首という描写が含む様々な民俗的・宗教的・文化的な背景からも、必至の物語であったと言えるのではないでしょうか。