ToshiyaYokota

WAVES/ウェイブスのToshiyaYokotaのネタバレレビュー・内容・結末

WAVES/ウェイブス(2019年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

〇今年鑑賞した新作では少なくとも現段階で一番の出来と感じている(2020年7月現在)。

〇まず冒頭から動きまくるカメラと鏡を使ったシーンの連続。まだ高校生のタイラーの心の不安定さ、自分とは嫌でも向き合わなくてはならないという部分がひたすら動くカメラと鏡のシーンで見事に表現されていた。自分と向き合うというところにフォーカスしているからか、主人公含めその家族にも友人は一切出てこない。家族以外の人間はタイラーの恋人アレックスとエミリーの恋人ルークくらい。青春ものでここまで恋人以外の他者を排除した映画も珍しい。

〇それからこの映画は映像的な始まりはエミリーが自転車をこいでいるシーンを後ろから追いかけるスローのショット、終わりはそのエミリーが自転車でこちらに向かってくるショット。そして音声的にもエミリーの吐息で始まり、エンドクレジット後にエミリーと思われる吐息で終わる円環構造になっている。その点、車内でカメラを軸に時計回りにぐるぐる回るシーンが3回ほどあったり、レスリングのコートが円の線になっていたりと作品全体でそれを想わせるシーンがいくつかある。

〇女神とあだ名を付けるアレックスが身籠り、タイラーは結果的に殺してしまう。彼が車で彼女のもとへ向かう際に流れる曲が「I am a God」というのも恐ろしい。

〇その現場にいた妹のエミリーは結果的に2回の死を目の当たりにする。1度目は「自分が動かない」選択をしたためにタイラーの恋人アレックスが死んでしまい後悔する。そこからエミリーは自ら動いて死に向き合うことになる(恋人ルークの父に死期が迫っているという設定はやや突飛だが)。自分の行動でルークを動かし、そして死期の迫るルークの父も頑張って少しでも長く生きようとする。そこからエミリーは母親へメッセージを送り、それが池に落とした小石の引き起こすいくつもの波紋のように、まさにタイトルの「WAVES」を引き起こしていく。

〇まだ31歳のトレイ・エドワード・シュルツ監督が放つ傑作。実験的にも思える場面もあるが、メッセージのやり取りをする場面でスマホの画面とタイラーの顔を映すだけで素晴らしい緊張感をもたらすなど演出にはもう熟練の技を感じる。語りがいのある作品だし、何度も観たい作品であった。
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