サマセット7

ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONEのサマセット7のレビュー・感想・評価

4.4
ミッション・インポッシブル・シリーズ第7作目。
監督・脚本は「アウトロー」「ミッションインポッシブル/ローグネイション」以降のM:Iシリーズのクリストファー・マッカリー。
主演はシリーズ通じて、「トップガン」「ラストサムライ」のトム・クルーズ。

[あらすじ]
数々の世界の危機を救ってきたIMFエージェント、イーサン・ハント(トム・クルーズ)に新たな指令が下される。
今回の敵は、世界中のネットワークに潜り込み、あらゆる電子機器をハッキングできるAI「エンテティ」!!
かつてない強敵を支配する手段である「鍵」を巡って、イーサンらチームと各国勢力の争奪戦が始める!
さらに、エンティティの代行者を名乗る怪人物ガブリエル(イーサイ・モラレス)や、闇の武器商人ホワイト・ウィドウ(ヴァネッサ・カービー)が鍵の争奪戦に加わり、事態は混迷を極める。
そんな中、鍵は女泥棒グレース(ヘイリー・アトウェル)の手に渡り、ハントはグレースに接近するが…。

[情報]
トム・クルーズが製作・主演を務める大ヒットシリーズ、ミッションインポッシブルシリーズの第7作品目。
PART1とのタイトルが示す通り、今作と次作PART2とは、前後編の関係にある。
物語は今作で完結しないが、今作なりの結末は迎える形になっている。

ミッションインポッシブルシリーズは、1960年代から70年代にかけてヒットしたTVシリーズ「スパイ大作戦」をベースにしてスタートした映画シリーズである。
しかし、第1作において、TVシリーズのお馴染みのキャラクターが、主人公のイーサン・ハント以外ほとんど全滅するという驚愕の展開を迎えた。
さらに回数を重ねるうちに製作・主演のトム・クルーズの権限と嗜好が大きくなった結果、特に第4作「ミッションインポッシブル/ゴーストプロトコル」以降、トム・クルーズ自身がスタントアクションを体当たりで行うことに先鋭化した、アクション映画シーンにおいても独自の立ち位置を築くに至った。

その傾向は、近作において顕著である。
第5作「ミッションインポッシブル/ローグネイション」以降の監督・脚本を務めるクリストファー・マッカリーは、名作「ユージュアルサスペクツ」でアカデミー脚本賞を受賞したプロット作りの名手である。
その達人をして、このシリーズでは、トム・クルーズのやりたい高難度アクションと、各俳優の個性を活かしたキャラクターありきで、脚本・台本はアクションを撮りながら同時並行でトム・クルーズと相談しながら作る、という驚愕の手法を採用している。

通常、危険なアクションを俳優に実際に行わせるのは御法度であり、いくら俳優が望んでも製作が許さないのが一般的である。
俳優が死傷した場合の、撮影の遅延や中止による莫大な損失、損害、リスクを、製作者や出資者が主に損害保険料の形で負担することになり、そんなリスクは誰も負わないからだ。
それゆえに、スタントマン、という職業が成立するわけである。

しかし、このシリーズでは、奇跡的に例外的な条件が揃った。
すなわち、製作者が、主演俳優自身であったこと。
そして、その主演俳優が、自ら危険な高難度アクションを演じることに、偏執的な情熱を燃やしていたこと、である。

トム・クルーズは、1981年に「エンドレスラブ」で映画デビュー。
トップガン、ハスラー2、レインマンと有名作品を歴任。
ポール・トーマス・アンダーソンやスタンリー・キューブリックら巨匠の作品にも出演し、美貌と爽やかさの中に一抹の偏執性を漂わせる、スター俳優となっていった。
この当時、彼が後年、異形のアクションスターになると予想する人は少なかったに違いない。

1996年のミッションインポッシブル第1作主演がアクション俳優への転換の第一歩になった。
しかし、彼を本格的にその道に向かわせたのは、自身の奇行によって人気に翳りが出た2000年代以降と思われる。
トム・クルーズは新興宗教に熱心に入信し、特異な言動を繰り返すようになり、お騒がせスターとして認知されるようになってしまう。

復活を期してシリーズ最大のヒットを記録した2011年公開の「ミッションインポッシブル/ローグネイション」以降、トム・クルーズの出演作は、ほとんどがアクション映画である。

今では、トム・クルーズは自ら危険なスタントアクションに挑む、伝説的なアクションスターとしての認知が定着した。

今作でも、トム・クルーズは恐るべきスタントに自ら、あるいは共演者と共に挑んでおり、そのいくつかの舞台裏の映像が動画サイトなどで公開されている。
有名なのは、トムがバイクに乗ったまま、崖からダイブし、そのまま落下した後、地上付近でパラシュートを開くシーンだ。
見ればわかるが、明らかに常人のやることではない。
トム・クルーズのようなトップハリウッドスターとあれば、尚更だ。

今作にはトム・クルーズ史上最高額、ハリウッド映画史上でも有数の製作費がかけられており、その額は2億9000万ドルを超えるという。
それだけの巨費を要した理由は、コロナ禍ど真ん中の製作のため感染対策に費用を有した点もあろうが、CGに頼らず、ロケ地で「本物の映像」を実写することに、トムがこだわった結果と見るべきだろう。
今作では、作中に登場する機関車を、映画用に自作し、実際に自然の中で走らせて、その上で俳優たちがアクションを行い、最終的には、その汽車を、実際に谷底に落とす、という、考えることさえバカバカしくなるような撮影が実践されたという。
プロデューサーは止めなかったのか?
…止めなかったのである。
プロデューサーがトム自身だったから。

今作の公開は2023年7月で、オープニング成績は好調と報じられた。
しかし、4か月経過した現在、興行収入は5億6000万ドル、とのこと。
悪くない数字だが、製作費やマーケティング費用に比べると、大きな赤字になる見通しだという。
原因は定かではない。
上下編という構成が客の足を遠ざけたのか…。

今作は、英語圏の批評サイトで、批評家、一般層共に、シリーズ随一の高い支持率と評価を集めている。

[見どころ]
観客の期待を超えるアクションの連打!連打!!
刮目して見よ!!!
トム走り!!
どれだけ続くの!とツッコミたくなるカーチェイス!
有名な崖ダイブ!
突き抜けた列車アクション!!
あらゆるアクションが、アクション映画史の最前線を更新していく!!!
イーサン・ハントと新キャラクター・女泥棒グレースのコミカルなやりとりも楽しい!!

[感想]
楽しー!!!

今作は、トムのやりたいアクションありきで、ストーリーはアクションを撮った後、辻褄を合わせるためにその場で書き下ろされる、と聞く。
その割に、それなりに先が気になるストーリーが紡がれたような気がしてくるのだから、すごい。
監督・脚本のクリストファー・マッカリーのストーリー修正力が凄いのか。
あるいは、アクションが凄すぎて、ストーリーの拙さが目立たないだけか。
その両方のような気がする。
今冷静になって考えると、ストーリーに色々と粗があるのは否めない…のだが、観ている間は全然気にならなかった。

舞台立てがまず、ゴージャスだ。
序盤のアブダビの空港での一連のシーンは、建設中の空港を貸切で撮影したらしい。
とんでもない。
その後もローマにベネチアと、ゴージャスな舞台が続く。
お金がかかっている!!

それぞれのアクションに工夫がある。
手間暇をかけている。
アクションの中に、キャラクターや関係性の表現がある。
優れたアクションとは、そういうものだ。
例えば、カーチェイスシーンのハントとグレース!
2人は同じ車両に乗り込むが…。
余り観たことのないシチュエーションだ。
2人の関係の面白さが、ビンビン伝わる!
その上でトム・クルーズは、俳優自身に車を走らせる!!

俳優の本物のアクション、と知っていると、観る方もハラハラが違う。
ある種のドキュメンタリー。
危険な競技を食い入るように見つめる体験に近い何か。
そこらのCGアクションとは迫力が違う。

新キャラクターも良い。
泥棒グレース!
ハントの要求に、マジで!?となるのが、新鮮でよい。スピードのサンドラ・ブロックを思い起こさせる。
自らスタントを演じたヘイリー・アトウェルの本心も、似たようなものだっただろう。

殺し屋パリス!
演じるはガーディアンズオブギャラクシーシリーズでネビュラを演じた、ポム・クレメンティエフ!
実際にテコンドーを嗜む彼女のアクションはキレキレだ!
カーチェイスシーンの狂喜の表情が最高!!!

キャラクターは、セリフではなく、アクションの中の演技で表現される。
その、映画ならではの、喜び。

IMFの古株トリオが揃ったシーン。
アクションのないシーンでは、3人が相応に年をとっていて、しんみりした。
イーサン・ハントの活躍を、我々はいつまで観られるだろうか。
クリストファー・マッカリーは、トムが80になるまで撮るつもりのようだが。

[テーマ考]
いつものように、このシリーズのテーマは一つだ。
トム・クルーズのアクション!
凄いだろおおおおおおお!!!!!

彼ほど、映画のために身命を賭せる人間は多くない。
どんなに映画が好きで、死んでもいいと思っていても、どこかで何かが足りなくなって、真に命懸けに出来るまでには至らないはずだ。
製作環境、資金の問題、俳優のカリスマや人気の問題。
彼は、スタントには何年もかけて何度も何度も訓練を積み、安全には細心の注意を払うという。
そこまでする、情熱。

こんな俳優、今生で2度と観られるとは限らないぞ!!

なお、ストーリー上、AIがどうとか言ってるが、いわゆるマクガフィンに過ぎず、作品のテーマ的に意味はない。
その証拠に、敵役の俳優がイーサイ・モラレスに決まるまで、AIは構想上、影も形もなかったらしい。
結果的にこの設定により、ルーサーやベンジーは電子機器が使えず、イーサンによる肉弾戦メインになる、という効用はあったか。

[まとめ]
トム・クルーズの基幹シリーズの、前作のハードルをまた超えてきた、最上のアクションムービー最前線。

トム・クルーズについて、最近、ジャッキー・チェンの文脈で評する人が多い気がする。
触れてこなかったジャッキー映画だが、手を出して見るべきか?