サマセット7

ウォッチメン アルティメット・カット版のサマセット7のレビュー・感想・評価

3.9
監督は「300(スリーハンドレッド)」「バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生」のザック・スナイダー。
出演はTVドラマ「グレイズアナトミー」「スーパーナチュラル」のジェフリー・ディーン・モーガンや「がんばれベアーズ」「リトルチルドレン」のジャッキー・アール・ヘイリーなど。
原作は、アラン・ムーアとデイブ・ギボンズ著作の同名のグラフィック・ノベル。

[あらすじ]
スーパーヒーローたちが実在し、歴史に介在してきたもう一つのアメリカ…。
6名のヒーローからなる第二世代のスーパーヒーローチーム「ウォッチメン」は、政府の統制のもと、ベトナム戦争のアメリカの勝利をもたらすなど、影響力を誇ったが、ヒーロー禁止条例の施行により解散。冷戦下のソ連への牽制として、神にも等しい超人「ドクター・マンハッタン」のみがヒーロー活動を認められる。
そんな中、元ウォッチメンの「コメディアン」が自宅で何者かに殺される。
元ウォッチメンの「ロールシャッハ」は、法の拘束を意に介さず、非合法に調査を進めるが…。
他方で米ソの緊張関係は極限まで高まり…。

[情報]
1986年から87年にかけてDCより刊行され、アメコミ界に新風を巻き起こした伝説的なグラフィック・ノベルの、2009年の映画化作品。
アルティメットカットは、劇場版を52分増量したバージョン。追加シーンのうち約30分を、「黒の船〜海賊船ブラック・フレイターの物語」なるアニメーションが占める。
これは、原作の作中作のコミックをアニメ化したもの。

原作のグラフィック・ノベルは、アイズナー賞やヒューゴー賞を受賞。グラフィックノベルやアメコミの域を超えて高い評価を得ている。

今作は、「現実世界にスーパーヒーローがいたとしたらどうなるか」を描いている。
覆面を被り、コスチュームを身に纏い、自警団活動をする者たちは、現実世界ならどんな人たちか。
今作のスーパーヒーローたちは、それぞれまともな社会生活から逸脱した者たちである。
従来のスーパーヒーローが当然のように身につけていた高潔さや正義感は、今作では、強迫観念や暴力衝動であったりする。
典型が、今作の主人公的立ち位置にある「ロールシャッハ」だ。
不気味に模様を変える仮面、法を逸脱した行動、躊躇なく振るわれる暴力…。
従来のスーパーヒーロー像とは一線を画する。

今作は、歴史改変ものでもある。
今作の作中の歴史では、ヒーローの活躍によりベトナム戦争にアメリカが勝利し、ウォーターゲート事件がもみ消され、ニクソン大統領が任期を継続し、ソ連によるアフガン侵攻が現実の6年後にスタートする。
冷戦下の、核戦争による滅亡の危機がリアルに感じられた時代。

今作のストーリーは、元ヒーローのコメディアン殺害事件について、ロールシャッハが捜査する、というもの。ロールシャッハが元ヒーローたちと面会するうち、コメディアンがどのような立ち位置のヒーローだったか、明らかになる。
ジャンルとしては、アメコミヒーローものとノワール、ミステリーのミックスか。

今作の監督は、「300スリーハンドレッド」でフランク・ミラー作のグラフィックノベルを迫力ある映像にしてみせた、ザック・スナイダー。
監督のビジュアル至上主義は、今作でも貫かれており、原作と同じ構図の映像が頻出する。

今作は、ほぼ原作を忠実に映像化されているが、膨大なディテールをもつ原作の完全映像化は不可能であり、作中の小説などは省略されている。
また、終盤の幾つかの展開が原作と異なっている。

今作は、1億3000万ドルの製作費で作られたが、1億8000万ドル強の興収に止まり、売上は振るわなかった。
今作の評価は分かれている。
社会批評性について高く評される一方、原作との比較で不満の声もあるようだ。ただし、ディレクターズカット版やアルティメットカット版は、より描写が増えて、原作再現度も上がっていると思われる。

[見どころ]
個性豊かな、オリジナルのヒーローたち!!
ロールシャッハ!ドクター・マンハッタン!
オジマンディアス!ナイトオウル!
シルク・スペクター!コメディアン!
彼らの自警活動は、何の暗喩か?
とにかく情報量が多く、考察の余地が大きい!
ザック・スナイダーによるビジュアル!!
時に原作そのもの!
アメリカ史をダイジェストで見せるとこ、最高!!
原作を読んでから観ると、アクションや流れが補完され、分かり易い!

[感想]
玄人向け!!!

分かりやすいカタルシスもなく、延々と暗く、陰惨な話が続く。
原作の評価されたポイントをある程度抑えてなければ、途中で、何を見せられてるんだ、となる可能性が高い。

ところどころ、アメコミヒーローっぽいアクションが見られるが、それ以上に、過激なバイオレンス描写が多い。

今作の楽しみ方としては、名作と名高い原作を読んでおき、原作準拠のビジュアルにニヤニヤする、というのがいいように思う。
原作再現度は、相当高いのは間違いない。

印象的なのは、各キャラクターだ。
それぞれ、何の暗喩なのか、考えて観るのも面白い。
人間を超越してしまった、神にも等しいドクターマンハッタン。
ドクターマンハッタンについていけない、恋人のシルクスペクター。
人類最高の知性を持つ、オジマンディアス。
手段としての暴力を肯定するコメディアン。
正義の行使に自信を見出す、ナイトオウル。
そして、法の規制を無視して、自ら信じる正義のために暗躍する、ロールシャッハ。
特に今作のロールシャッハは、カッコいい。

終盤の改変は、予算の都合か、あるいは、2009年というポスト冷戦の時代の表現か。

[テーマ考]
今作の各ヒーローは、それぞれ、アメリカそのものやアメリカ国民のメタファーと見ることができる。
核をはじめとする軍事力、世界の管理者、国益を追及するマキャベリスト、傍観者、平和主義者などなど。

では、ロールシャッハは、何の暗喩か。
場合によっては、体勢に都合の悪い真実を、掘り返す男。
真実の追及。
体制を批判的にウォッチするもの。
すなわち、民主主義における、ジャーナリズム、か。

今作は、ヒーロー論でもある。
人を救う者がヒーローなのであれば、コメディアンの生き様も、今作の黒幕の理論も、いずれもヒーローになり得る。
それでいいのか?とロールシャッハは問う、
多数のために、少数を犠牲にするのは、果たして本当のヒーローか?

[まとめ]
伝説的なグラフィックノベルを、圧巻のビジュアルで映像化した、脱構築・アメコミヒーロー映画。

原作の続きとして、ドラマシリーズが作られている。
評価も高いようなので、是非観てみたい。