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ファースト・カウのいののレビュー・感想・評価

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
4.3
公開直後ということもあり、これはあくまでわたしの個人的な思いでしかないのだけれど、あらすじとか物語的なところを語るのは控えたい気持ちもあるので、すみません、取るに足らないことをアレコレ書きたいと思います。


① 黄色、そしてオレンジ色
オープニング・クレジットは黄色。この“イエロー”の意味を今後考えてみたいと思う。西部劇も全く詳しくないけど、マカロニとかのオープニングは黄色か赤色。“イエローストーン”というイエローもそうだけど、その意味は何なのか。これからちょっと考えてみたい。


黄色の船(なんという種類の船かわからない)が、舞台でいうなら上手から下手にゆったりと移動する。終盤での小舟も黄色にみえる。そして、エンドクレジットは、黄色にもっと赤みがかかってオレンジ色になる。それはまるでドーナツのように。黄色に蜂蜜をかけた色合いのように。そこにはシナモンも混じっているかもしれない。可愛い牛はその中間の色。黄色もオレンジも、自然界から祝福されているような色だなってわたしは思う。太陽の光を浴びている。


② 巻頭句?
友情はsafety netたり得るの意、だと理解した。物理的なそれではなくて、心の拠り所として。これを最初にバーンって出されるのは、観客に対しての監督からの意思表明か。ちょっと親切すぎる気がしないでもないけど、でも寄り添った2体の在り方の提示の仕方はめちゃくちゃ優しいと思う。


③ 時代設定はいつなのか?
映画を観ながら、この時代設定はいつなのかを考えるのは好きです。世界史くわしくないからまだようわからんけど。これはひょっとしたら、独立戦争前だろうかと思ったり、ゴールドラッシュよりは前、どんなに遅くとも南北戦争よりは前だろうと。金脈狙う話は出てこず、ビーバー捕獲で稼ぐ話は出てくる。『ミークス・カットオフ』よりもさらに時代は遡ったはずだというのがわたしの推測です。(レビュー投稿後に確認したいと思います)(※1)


④ 仕合わせる
ミシェル主演の『ミークス・カットオフ』でも糸と針で繕う場面があったけど、今作の針はもっと無骨でもっと手作り感満載だった。監督はそういう場面をとても大事にしているのだと思う。キッチンツールのアレコレはほぼ自作。慎ましい生活の様子は、パーフェクトデイズの平山さんとも重なっていく。


⑤ あれこれ
事件が起き、料理人であるクッキーが小屋で寝ている場面は、本人以外の壁などがぼやけていて虚ろ、本人のみに焦点を当てている絵画のようでもあり、異世界に入り込んだようでもあり、わたしとすれば素晴らしい映像だと思った次第。


料理人のクッキーと中国からの移民キング・リーは友情を育てていくけど、おそらくはその対極にいる人物として、ひとりの若者が控えめに描かれる。彼は列に並んでもドーナツを手にすることができない。ささやかにしか描かれないけど、彼が登場すると、わたしの心のなかはざわついていく。


わたしは、○○監督はこういった作品を創る、というようなものは何ひとつ思い当たることができないのですが、でも、ケリー・ライカートの作品は、観た直後よりも時間が経過したあとでじわじわきて、いつの間にかとても大切な作品になっていることが多いと感じています。心の中での友、のように。心のなかに棲みついてくれる。それはなんて頼もしいことなんだろう。なんて愉快なことなんだろう。今作も、どんな風に心に根づいていくのか。とても楽しみ🐮



***
(※1)舞台はオレゴン州らしいので(わたしはそんなこと映像からわからなかった💦)、独立戦争前ということはあり得ないかもしれない


『ファースト・カウ』では、ビーバー捕獲が金になるという話が会話の中でされていました。『ミークス・カットオフ』を再鑑賞したところ、そこでは、ビーバーは絶滅し(だったかな?)捕獲はもうできない、という話が出てきたように思います。やはり時代設定としては、『ファースト・カウ』→『ミークス・カットオフ』の順だろうと思います。


***
〈追記〉2024.01.20
メモ
・『ファースト・カウ』は1820年代のオレゴンの辺境
・『ミークス・カットオフ』は1845年オレゴンで起きた事件に基づく
(参考文献『フロンティアをこえて』川本徹、森話社、284頁、272頁)

*ライカート監督作品は、オレゴンを舞台とするものが多いのかなという印象。ちなみに、カリフォルニアとオレゴンについては同書45-48頁に詳しい。
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