イルーナ

ジャンゴ 繋がれざる者のイルーナのレビュー・感想・評価

ジャンゴ 繋がれざる者(2012年製作の映画)
4.7
前作『イングロリアス・バスターズ』で20世紀最大の闇ナチスドイツに挑んだタランティーノ。
今回の標的は、自国にとっての最大の闇である奴隷制度。
それまで奴隷制度を真正面から扱った作品が殆どなく、それを扱ったオマージュ元の『マンディンゴ』は、あまりにもリアルかつグロテスクな内容から酷評され長らく封印状態に。
それだけアメリカ人にとって重すぎる十字架と言うべき題材に真っ向から挑み、なおかつエンタメに仕立てたタランティーノの手腕と男気は流石としか。
私にとってもタランティーノは、マカロニウエスタンに触れるきっかけをくれた存在なのでとても楽しめました。
さらにそこにジークフリートとブリュンヒルデの伝説もミックスするというセンスに痺れます。原典では一族郎党全滅という悲劇で終わる伝説が、本作では痛快復讐劇に昇華!

まず、OPで『続・荒野の用心棒』のテーマソングが流れる所から一気に引き込まれるわけですが、映されているのは足を鎖でつながれた奴隷の一団……
まともに服さえ与えられないまま全身傷だらけになりながら行軍させられる姿に、当時の過酷さが偲ばれます。
そこでドイツ人賞金稼ぎのシュルツによってジャンゴは解放され、賞金稼ぎとしてコンビを組むことに。
ジャンゴとシュルツの師弟関係は『怒りの荒野』そのものですが、リアタイ当時「この二人そのうち決裂するんじゃ……」とハラハラしてました。そんな事なくてよかった。
このシュルツというキャラクターは、アウトローが多いタランティーノ作品のキャラでは非常に珍しい、まともな倫理観を持つ善玉。
ヴァルツが前作で演じたランダ大佐とは正反対のキャラクターで面白いですね。
一方ディカプリオはガチの悪役ということで当時衝撃を与えたと思いますが、二人の目的を知って激昂するあまりテーブルと一緒にグラスを叩き割り手が血まみれになるシーンで本当に怪我していたとのこと。
にもかかわらず、その後も長台詞を言い続け、ブルームヒルダの顔に自身の血を塗りつけるシーンを演じきったディカプリオ……
色々な意味で恐ろしいシーン!
そんな彼に使える奴隷頭スティーヴンは見た目は黒人でも、中身は特権階級を謳歌する白人そのもの。
表向きマザファッカな口調の道化を演じてますが、裏ではカルヴィンと対等な立場という、本来弱者のはずが強者に取り入って横暴な権力者と化すという、リアルによくいそうな悪役。

そして『続・荒野の用心棒』の主人公を演じたフランコ・ネロがカメオ出演しているのですが、この新旧ジャンゴのやり取りにニヤリとさせられた方も多いのではないでしょうか。
「名前は何だ?」
「ジャンゴ」
「スペルは分かるか?」
「D・J・A・N・G・O。Dは発音しない」
「知ってる」

「Dは発音しない」の所、分かってるなぁ。

アニヲタwikiにまとめた記事
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/55670.html

追記
シュルツは元歯科医ということでドク・ホリデイがモチーフかと思っていたのですが、悪役の名前がキャンディ、つまり甘いもの→アメリカにとっての虫歯である奴隷制度と考えると、それを倒すのが歯科医というのはなるほど!となりました。
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