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すばらしき世界のmoobyooのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
5.0
脚本に隙がなく鉄壁な演出も神がかり的であり、これぞ西川美和監督による人間ドラマの真髄と言える秀作です。世の中からズレてしまう人間を注視して、その生き様から社会の歪みを辛辣に引き摺り出しながらも、決して人を見捨てない作風は健在です。

当然、役所広司さんは完璧。ヤクザから堅気になろうと奔走するも不器用な一途さが邪魔をして上手く立ち回れない中で出会う一般人役の仲野太賀さん、六角精児さん、北村有起哉さんとの関わりから、やがて互いに成長し得難い関係に発展して行く様が沁みます。

見て見ぬふりがいけないのは分かっていても、時として長いモノに巻かれなければ世の中に混ざれない矛盾を示しながら、我慢を得た主人公に訪れる束の間の幸福感は計り知れません。

ラストで干されたまま取りこまれず唯一雨に濡れる洗濯物の白いシャツと、その手に握られた秋桜の花束に様々な想いが込められ、最大の安楽を得たのかも知れないと思わせる余韻が緩やかに響きます。まさに世界に通用する日本映画としての傑作です。
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