キリアン・マーフィー演じるオッペンハイマーを中心に据えて、圧倒的な会話量と蠢く登場人物たちを入れ替わり立ち替わり交差させながら、原爆が如何にして創造されたかを紐解いて行く、クリストファー・ノーランの精魂を極限に携えた野心作です。
今やノーランとは切っても切れないIMAX撮影が、本来は合わないジャンルの作品ながらも『2001年宇宙の旅』を彷彿とさせる幻影を所々に施すことで、包囲される音場と共にイマジネーションが際立つ映像を確立させています。
科学の天才に向けられる嫉妬が、アインシュタイン絡みである所以であるエピソードに秘められる辛辣な事実に至るオッペンハイマーが直面する膨大な謂わば茶番劇ですら、原爆完成の余波の一端に過ぎない現実が皮肉です。
どうしても広島と長崎の地名が表現される度に、複雑な心境に成らざるを得ない部分は避けられないにしろ、原爆を作り投下した国の内情を知ると云う意味では、今までのノーラン映画の娯楽性を排除しながらも重厚で見応えのある作品であることは確かです。
