yuu223

すばらしき世界のyuu223のレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.5
待ちに待った西川美和監督の最新作
前作「永い言い訳」のレビューで
「また3年後」と記しましたが、
コロナ禍もあり、4年後になって
しまいました

一言で
何処を切り取っても西川監督の作品
人間の、社会の2面性について
とことん考えさせられる作品です

鑑賞後、たくさんのレビューを
読みましたが
私個人的には西川監督の洞察力は
もっともっと深い所まで至るのでは
という思いに支配され続けました

冒頭の刑務所を後にする際、
刑務官からの
「罪に対する反省」を問われた三上の
反応を見て「ケーキの切れない不良少年」の
ことが頭から離れなくなりました

さらには前作「永い言い訳」の源流とも言える
「人生は他者だ」という言葉、
「ゆれる」のラストシーンの
香川照之さんの表情がたたみかけるように蘇り、
泣けるどころか怖くなりました

「善人」と皆が讃える三上を支える人々
本当に?

最初は三上に対して好意的ではない
態度だった彼らは「困ったことがあれば
なんでも言って」という言葉のまま
頼る三上を自分の立場や状況を優先し、
あしらうことで三上は
傷んで九州に向かってしまいます

また仕事が決まった三上を「普通に近づいた」と判断し、世の中の立ち回り方についてグサグサと
刺さる言葉を投げつけるシーンが本当に怖かった

ただ、彼らが悪人と言えば決してそうではなく、
私も含め世の中に折り合いをつけて
生きる人たちの実直な描写なのだと思います

そのほかにも最初は優しく寄り添う印象を与えた
病院の女医や仕事先の若い介護士の
態度の変わり様や極道の世界の現実など
「2面性」を浮き彫りにする演出が
随所に散りばめられています
終盤の介護施設でのやり取りあたりから
もう、辛くて辛くて…

唯一、裏表なく三上と向き合うことを
決めた津乃田のラストシーンの態度と
他の人達との距離感からの青空に映し出されるタイトル「すばらしき世界」

至近距離から物を投げつけられた
ような衝撃とともに
やはり今回も西川監督に嫉妬するしかない
自分がいました
原案になった「身分帳」も読んでみようと思います

太賀君とのお風呂のシーン
ソープ嬢とのやりとり
キムラ緑子さんの言葉
タイトルとともに皮肉なぐらい美しい東京の夜景

どれもすごく良かった

三上の他に裏表のない人物のもう1人が
長澤まさみ扮するテレビ局員
クソ女ですが、1番多くいそうな人物像では?

前作「永い言い訳」同様
この後も必ず私に影響を及ぼす1本に
なりました

西川監督、また3年後まで
お待ちします
yuu223

yuu223