GreenT

本当の僕を教えてのGreenTのレビュー・感想・評価

本当の僕を教えて(2019年製作の映画)
3.0
ドキュメンタリーなんだけどミステリー形式で、目が離せなくなりました。

アレックスは18歳の時バイクで事故り、記憶喪失になる。長い昏睡状態から目覚めると、一卵性双生児のマーカスのことだけは認識できるが、両親やガールフレンド、自分の名前や過去は思い出せない。

こうして記憶喪失になるってことがどういうことかというのが解って興味深かったです。マーカスによると、アレックスは18歳なのに9歳児のようで、なんでも「これは何?あれは何?」と訊いてくる。靴紐の結び方を教えたり、歯の磨き方を教えたり。

でも、言葉は喋れるんですもんね。しかもマーカスのことは自分の双子の兄弟だと認識できる。

最初の何ヶ月かはそうして生活していたんだけど、いよいよ友達に会いにいくという事になった時、アレックスはマーカスに、友達の名前や自分との関係を説明させ、記憶喪失ではないと装ったんだって。ガールフレンドにもバレなかったらしい。

こうしてアレックスは、すごい短期間で普通の18歳の若者として機能するようになったんだそうです。やっぱ記憶を失ったとしても、一度経験していることを学習し直すのは早いんですなあ。

しかしそうなってくると、また色々新たな疑問が浮かんでくる。アレックスには子供の頃の記憶が一切ない。「人間って、過去の出来事で自己が形成されるものだと思う。それが全くないのはとても辛かった」とアレックスは語っている。

そこが「本当の自分を知りたい」ってことなんでしょうな。

マーカスは、お父さんはちょっと偏屈で冷たいけど、優しいお母さんと幸せな子供時代を過ごしたとアレックスに教えていたんだけど、30歳くらいになって、最初は父親、次に母親が亡くなることによって、隠されていた真実が見えてくる。

で、アレックスはマーカスに「本当はなんだったんだ」と迫るんだけど、マーカスはそれからは口をつぐんでしまい、全くその話に触れなくなった。

そして54歳になった今、やっとマーカスが真実を告げる準備ができるようになった・・・

って話なんですが。

興味深いのは、マーカスはアレックスが記憶を失ったので、辛かった子供時代を楽しい思い出に塗り替えた、せっかく忘れられたのに、わざわざ思い出させることはないと思ったらしいんですけど、同時に、アレックスに教えていた「ウソの子供時代」を自分も信じるようになっていったそうなんです。

だから、アレックスが真実の断片を発見し「本当のことを教えて」と言っても、それを言いたくなかったのは、自分がそれを忘れたい、「ウソの子供時代」を自分が信じていたいからだったんだそうです。

でも記憶喪失になったアレックスの方は、自分の本当の過去を知らない限り、自分が何者かわからないと主張する。これは興味深いと思いました。これは記憶喪失になってみないとわからない感情ですよね。例えば「お前は人を殺したんだ」とか言われたとしても、やっぱり真実を知った方がいいんですかね。

この2人はなんでこんなプライベートな、しかもアレックスの方は初めて聴く話を人前でやったのかな?と不思議に思ったのですが・・・・ネタバレはコメント欄で!
GreenT

GreenT