りっく

本当の僕を教えてのりっくのレビュー・感想・評価

本当の僕を教えて(2019年製作の映画)
4.1
一卵性双生児のうち1人が記憶喪失になり、幸せであったであろう家族との記憶を辿っていくうちに、その影に隠れた不穏な過去を突き止めようとする。

双方の証言でチャプターに分かれている構成は、隠された真相に近づこうとする者と、それを隠したままにしたい者とのせめぎ合いにより、本作の中心に横たわる大きな謎を巡るミステリー仕立てとして面白さも担保されている。

本作は巨大なトラウマとどのように向き合うかを問いかける。相手のことを想うからこそ邪な嘘によって記憶を捏造し、それによってトラウマから目を背け蓋をしようとする。

だが、最も信頼している人間に嘘をつかれ裏切られた傷も、捏造された人生をリセットしゼロからスタートする絶望感も計り知れないものがある。双方の心境が痛いくらいに分かるからこそ、様々な感情が渦巻き、ついに2人は対面する。

共通のトラウマに蓋をすることで乗り越えられたと自分に言い聞かせることはできるかもしれない。だが一方、その経験は共通のものだからこそ、今度はひとりではなく、2人で一生をかけてトラウマに立ち向かい乗り越えられる。そんな美しい抱擁に胸が詰まる。
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