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花束みたいな恋をしたのstのレビュー・感想・評価

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
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こういういかにもな商業恋愛映画を久々に観た気がする。大学生から社会人という転換期の中で移ろう価値観と恋愛観。そこにはゼロ年代の携帯小説的な悲劇の共有によるロマンチシズムではなく、ハッシュタグ的な嗜好性の共有によって紡がれる物語がある。本作は、全体として、大衆娯楽的に消費されるべく製作されているのは一目で分かる。その一方で一つのメッセージとして描かれるは、現代人は「共有可能」な物語と「共有不可能」な物語とを具有しているということ。LRのイヤホンで再生されることを大前提にミキシングされた音楽のように、私たちの持つ物語の2つの側面は密接に合わさっている。私たちは、それらの共有可能性と共有不可能性とをふとした瞬間に意識しながら現代を生きる。そして、その瞬間が訪れるのは、ファミレスやカフェ・居酒屋と、時・場所を問わない。また、文化を好き好きに享受できる<若者・学生>と、「責任」ある機械と化した<大人・社会人>という対比が、親の世代における<花火を愛する長岡人(=美しきものを追求し続ける子供心を持った人々)>と<エリート広告マン(=ONE OK ROCKやオリンピックといった大きな「装置」を動かし続ける大人)>という対立の中にも見られる。麦と絹がカメラを片手にしらす丼を食べながら眺める海と、トラック運転手が仕事を投げ出した海は同じ平面上に繋がっているという紛れもない事実が、インターネット化した社会と、そのカオスの中でもがく私たちのあり方を仄しているようにも思う。
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