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花束みたいな恋をしたのHrtのレビュー・感想・評価

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
4.0
自分の古傷を抉られるようで観るに堪えない感情が押し寄せてくる。別に経験自体が傷として残ってるわけではなくこの話も誰しもに当てはまる共感装置として機能するのみに留まっている。けどこれを2時間、スクリーンでこうも見せつけられると徐々に自分の心のある箇所がジリジリし出すのは確かに感じた。
僕たちと世界。その排他性が際立つ度に彼らの愚かさや儚さに加え愛おしさの感情も芽生える。
「社会って、お風呂と同じなの」と諭す絹の母の言葉のように、2人(特に麦)は徹底的にその「熱さ」に人生を再定義される。
その社会性は全編にわたり意地悪に描かれイシュー的なものも散りばめられてるものの、決定的に2人を引き裂く要因としてまでは前傾化していないバランスが良い。
終始あの頃の私たちと今の私たちでの対比が寂寥をもって描かれる。
膨大な量のプロダクト・プレイスメントはその時代のカルチャーへ没入させるに十分すぎるほどだ。
特にGoogleストリートビューの使い方は絶妙で、現在から見る思いがけない過去との遭遇としてあれ以上自然にキャプチャーできる装置は他に無いだろう。
ストリートビューに映る人物には全てボカシが入るプライバシー上のリアルな制約とそこに伴う、2人の主観的な写真を見返すこととは全く違う演出面の必然性が見事に重なる。
偶然見つけた老夫婦のパン屋とそこで買った焼きそばパンを頬張る麦と絹。
今では全て無いものだがストリートビューだけはその瞬間をはっきり捕らえていた。
恋愛においてあれほどの大肯定があるだろうか。ものすごく巧みな恋愛讃美の仕方だったと思う。
苦虫を噛み潰したような表情を貼り付けて観ていた後半だったがあのラストカットがあることで全て救われてしまった。
恋愛と社会生活の折衷、その難しさも露悪的に描かれていたが終わってみれば恋愛というその時々では特別だった関係性を真正面から大肯定してくれる慈愛に満ちた作品だと感じた。
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