むっしゅたいやき

静かなる男のむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

静かなる男(1952年製作の映画)
3.8
私の中ではフランク・キャプラと共に、『最もオプティミスティックな監督』であるジョン・フォード監督作品。
想像通り、後味爽やかな作品である。

本作はアイルランドのとある架空の閑村、イニスフリーへ帰郷した主人公を巡る、人情喜劇である。
アイルランドの伝統的習慣、価値観、そしてそれを体現したかの様な花嫁の兄への習合に苦闘する恋人二人とそれを取り巻く人々の様子が、滑稽味を持って描かれている。

ジョン・フォードと言う人は、バランスの良い監督である。
本作でも通常主人公二人の心理描写と関係性へ重きを置き勝ちな所、何処か寂寥としたヒースの野辺を含めたアイルランドの自然に加え、マス釣りや競馬レース等の習俗に興じる人々の姿をテンポよく挿入し、我々を全く飽きさせない。
冒頭イニスフリーへ向かう際の夕暮れの曇天、競馬の際の抜ける様な青空、喧嘩の際の暑そうな快晴と、空模様に主人公の心理状態を仮託していると見るのは穿ち過ぎであろうか。

反面、些細な点で私にはその価値観に理解が及ばない面も見られた。
8kmもの間手を引かれ引き摺られ、また偶に蹴られた妻が、何故羞恥無く誇らしげなのか…。
『時代』と言われればそれまでであるが、野卑な行動が男らしい、と云う点には些か疑問が付く。
その少年漫画的な結末も含め、総じて清々しく楽しめる作品であるが、この一点のみ心残りである。
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