アラサーちゃん

木靴の樹のアラサーちゃんのレビュー・感想・評価

木靴の樹(1978年製作の映画)
3.5
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「木靴の樹」
19世紀末のイタリアでは、貧しい暮らしを強いられる農民たちがいた。6人の子どもと父親を女手一つで養う未亡人、美しい娘に恋する男、細かなことにもケチな一家、そしてミネク少年が育ったバティスティ一家。彼らは大地主のもと厳しい取り立てに喘ぎながらほそぼそと農作で生計を立てていた。
ある日、神父から息子への教育を説かれたミネクの父親は、働き手が減ることに嘆きながらも彼を学校に通わせる。そんななか、大事な木靴を片方壊してしまったミネクに、父親は川辺の樹をこっそり切り落とし、彼の木靴を作り直してやるのだが、その樹ももちろん地主の持ち物であった。1978年、伊。

村の日常から描かれるはじまりは、まるでドキュメンタリーかと見紛うほどの現実感。
実際の光線を取り入れ、村の素人をキャスティングし、とことんリアルを追求したエルマンノ・オルミの大傑作。

いちいちのシーンで、貧困時代の片鱗を目の当たりにする。白パンを食べなさいと言われたミネクはパンにかじりつくのではなく、ほんの小さな指先ほどをちぎって口に含む。

特徴といえば宗教的・絵画的な面が色濃く、ちょこちょこと出てくる教会、宗派のシーン、音楽やまるで画のようなショットは美しかった。現代の日本に生きる私には少し縁遠いところもあるんですが、この時代、こういった生活を常としてなんの疑問も抱かずに淡々と毎日を生きてきた彼らの心の拠り所は確かにあるべきだったんじゃないかと思うのです。

いい映画です。
いい映画ですけど、観る人は気をつけてほしい。
この映画には、映画にあるべきドラマ性はなくって、そこにあるのはただリアルだけです。
事実は小説より奇なり、と言うけど、奇なんてことはない。当たり前がそこにあって、当然の物事が進んでいくだけ。それを私達は観るのではなく見守るような感覚。
でもこんな素晴らしい映画って他にないと思う。