ことぶき

カモン カモンのことぶきのレビュー・感想・評価

カモン カモン(2021年製作の映画)
4.8
こんなに刺さるはずじゃなかったのに、がっつりブッ刺されてしまった。しかも刺さるとよくなさそうなところに。大人と子どもというテーマはもともと大好きだ。それにしたって撃ち抜かれてしまった。

暮らしを、営みを切り取る画面は単調なようでいてドラマチックだ。交わらなかった叔父と甥が不安定な状況の上で交わって、ぐらぐらと揺れ続けている。観ていると、毎秒楽しいのに毎秒不安だ。ジェシーがつぎになにをしてくるか、「なにをしてくれるか、なにをやらかすのか」が落ち着かせてくれない。
実際にわたしが見ている世界とは色が違う、スクリーンに阻まれた向こうがわを覗き見ているに過ぎないのに、ジェシーとジョニーのやりとりを肌で感じているようだった。
この作品を通して与えられたのは、教訓ではないと思う。もちろん一方的な説教でもない。どうやってつらいこと、悲しいこと、ままならないことを受け流していくか。傷をごまかして生きるのはたぶん、悪いことじゃないんだと思う。
大丈夫、弱くなんかないし、もしたとえ弱かったとしても、それでもわたしたちは生きていける。

観たときの感覚ごと覚えておきたいシーンばかりだった。行進のなか、ジェシーを背負って歩くジョニーの姿になぜだか泣けた。なんでだろう。子どもをひとりの人間として尊敬する、誠実に向き合うことで見えてくるものがある。与えられるものがある。この作品を通してジェシーをはじめ、たくさんの子どもたちの言葉を聴くことができたことが何よりも大きかった。
大人だって子どもだって、未熟で、どうしようもなくて、どっちもどっち。
ことぶき

ことぶき