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由宇子の天秤のnt708のネタバレレビュー・内容・結末

由宇子の天秤(2020年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

本作を高く評価するレビューが多い中で大変申し訳ないのだが、私の肌にはどうも合わなかった。もちろん本作がやろうとしたことは大変興味深いし、価値のあることだと思う。しかし、これが個人的好みの問題となると話は別だ。

本作はドキュメンタリー監督の実生活と、彼女が追っている自殺事件の真相とが文字通り「天秤」にかけられているところにその面白さがある。自分は真実を追う者としてどう振る舞うべきか。主人公の中の善悪が常に揺れ動くのである。「天秤」にかけられるのは善悪の問題だけではない、実生活と仕事のどちらを取るか、真実を伝えることが本当の正義なのか、、など、両立し得ない価値観が常に天秤にかけられ、物語を紡ぎ出すのである。

しかし、いかんせん私には長過ぎた。これは作品全体の尺というより、ワンカットの長さの問題である。もちろん妊娠した少女の父親がラジオを消すといった台詞に頼らない演出は長回しゆえになし得るのだろうが、それが全て必要だったかというと疑問を持たざるを得ない。一言でいえば、展開にメリハリがないのである。由宇子のように作品を通してフラットな姿勢でいることを示すためにあのような編集になっているのなら理解できなくもない。しかし、あそこまでフラットだと、登場人物の気持ちの揺らぎや最後の決断を描くうえで、かえって観客の感情移入を妨げるノイズになるような気がした。あくまで本作はフィクション映画であるからこそ、何らかの主張をすることから逃げずに、意図的な感情誘導をしてほしかったところである。

とはいえ、本作は力作中の力作。一見の価値がある作品である。あとは好みに合うかどうか、全くもって作品の出来には関係のない個人の問題に過ぎない。
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