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エルヴィスのAoiのレビュー・感想・評価

エルヴィス(2022年製作の映画)
3.8
走馬灯のように目まぐるしく変化していったエルヴィス・プレスリーの音楽人生を描く。

エルヴィス・プレスリーについては詳しくなかったが、有名な楽曲いくつかと簡単なバイオグラフィーを予習してから見た。そのおかげかテンポの速い展開にもある程度ついて行けた。
小さい頃から黒人音楽に親しみ、差別的な空気を気にせずに自分のスタイルに取り入れていった彼の音楽性がわかりやすく描かれていた。実際のライブ映像を折り込んだり、アメリカの歴史的な出来事を絡ませたりすることで当時の雰囲気も伝わってくる。

前半のスターが生まれるまでの展開はテンポ良くとてもワクワクした。カーニバルの観覧車のシーンは彼の運命が回り出すようだったし、孤独なエルヴィスとGeekの看板が重なるシーンは見てはいけないものを見てみたいという人間の背徳感を呼び起こすメタファーとして優れていたと思う。
ステージ上の彼のパフォーマンスに狂ったように叫び出す女性たちの悲鳴、投げ込まれる下着…には若干引いたけど笑。

一方で、予習していた分、史実をなぞるだけであまり新しい情報がなく、想像の域を越えなかった気がする。ジャンル分けするのは好きではないが、『ボヘミアン・ラプソディ』『ロケットマン』など音楽スターの半生を描いた作品と比べても、情緒的に訴えかけてくるものが少なかった。もう少し彼の人となりにフォーカスしてほしかったのが残念。

また、金降らし男スノーマンことトム・パーカー大佐が第四の壁を破壊してくる演出は今ひとつだった。トム・ハンクスの演技は素晴らしいし、仕掛け人であることは間違いないのだけど、エルヴィスとの長年の縁も納得のいく説明ではなかったし、結局エルヴィスを金銭的に搾取しただけの男という印象しか残らざるを得なかった。

とはいえアメリカ人や当時の熱狂を知る人たちには刺さるものがあるのかもしれない。そんな熱量のある大作だった。


おまけ
‘68 Comeback Specialのプロデューサーに見覚えあると思ったらストレンジャー・シングスのビリーだった。
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