Aoi

すずめの戸締まりのAoiのネタバレレビュー・内容・結末

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

宮崎県に住む女子高生すずめが出会ったのは全国の廃墟にある“扉”を閉めて旅する閉じ師の草太。すずめが偶然引き抜いてしまった要石は猫に姿を変え、草太を人間から子供用の椅子に変えてしまう。すずめと椅子になった草太はその猫を追って全国を巡ることになる。



見始めて最初に感じた既視感の正体は、
「汝のあるべき姿に戻れ」
カードキャプターさくらでした。


本作も『君の名は。』『天気の子』と同様に天変地異を食い止めようとする壮大なファンタジーではあるが、新海誠監督にしては地に足をつけた作品だと思った。


まず描写に関しては、廃墟のひっそりとした寂しさや不気味さが伝わってくる。新海誠の描く世界は限りなくリアルで綺麗だが、本作は場所の空気感を作り出すという点で新境地を開いた気がする。

『君の名は。』と同様に神事や古くからの伝承を作品に取り入れているのが興味深い。閉じ師の家系が宗像という名字なのもいかにも神様らしい。
地震を起こすナマズを要石で押さえつけているという信仰は江戸時代からあった。ナマズがミミズになっているのは、村上春樹の「神の子どもたちはみな踊る」のかえるくんのストーリーから来ている。本作は天災を物語として後世に残そうとする試みの一環であり、東日本大震災と初めてまともに向き合った作品だろう。


九州から四国、神戸を経て東京、そして東北へ
ひょんなことから始まったロードムービーはすずめ、
そして私たちの過去と向き合う旅となる。

震災を“経験したことのない側”としては当事者の気持ちは想像もつかない。しかし共感することはできる。私も劇中に出てくるような全国の色々な景色を見てきて、そこで暮らす人々やその時しか見られない光景を大切にしてきたほうだ。中には災害などですっかり変わってしまったものもある。失われてしまった景色や人々の思いに寄り添いながら、私はまた新しい景色を求めて旅へ出るだろう。

今ある当たり前の風景、何気ない日常が明日なくなってしまうかもしれないーー
日本で暮らす人なら一度は抱くであろう不安を映像として表現し、それでも明日を一緒に生きていこうと背中を押してくれる作品だった。

そして失ってしまったもの対してどう気持ちの折り合いをつけるか、という一つの答えを提示する。自分もすずめのように迷子になっている扉の鍵をかけられているかなと思いを巡らした。

とても良作だけど生々しい分、精神的に持ってかれるのが少々難点。
そして思ったよりも自分は『君の名は。』が好きだということに気づく。




*****鑑賞メモ******
上映前に舞台挨拶の中継があった。
予告編くらいしか情報を入れてなかったので、すでに観た人の感想の熱量と、主演2人と監督の粛々とした雰囲気、突然披露されるカシコミカシコミの生アフレコに若干引く笑。
観終わってみれば、有意義な舞台挨拶だった。

無料で配布された新海誠本が気合い入ってる。もはやパンフレット。
本作の企画書が出されたのがロックダウンが始まった頃の2020年4月初旬。そう考えるとこの作品が時空を超えたメッセージのように思えて、その頃の自分と現在までを重ねてじんわりくる。
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