keith中村

エルヴィスのkeith中村のレビュー・感想・評価

エルヴィス(2022年製作の映画)
5.0
 相変わらずのバズ・ラーマン節が炸裂。
 色彩の洪水と強迫神経症的ハイテンション映像。
 そんでもって、後半のしんどさ。
 
 いや、持ち上げておいてどん底に落とすのがラーマン映画とはわかってるから非難するわけでは決してないんだけれど、今回も後半が不快・苦痛になるレベルでしんどかった。
 なんだろうね。たとえばラース・フォン・トリアーだったら徹頭徹尾「陰」なんで、ずっとその空気に付き合っていてもしんどくはない。むしろ、「またやってる~!」って楽しめちゃう。
 でも、バズ・ラーマンはなまじ前半が楽しいだけに「陰陽」の振れ幅がでかくなりすぎて、「あ~、今回もそうだよ。ずっと前半のテンションで観たかったよなあ」と疲れてしまうのでした。
 
 さて、エルヴィス・プレスリー。
 もちろん私の世代の人ではない。
 ビートルズだって世代じゃないんだけど、10代でビートルズ沼にハマったんでそこそこマニアだと自負している。もっともビートルマニアは上には上がいくらでもいるから、自慢するほどじゃないんだけれど。
 それに対してエルヴィス・プレスリー。
 アルバムは一枚も持ってない。
 それでも、さっきWikipediaでシングル一覧から数えたらオリジナルだけで20曲くらいは当たり前に知ってたし(自分でも驚いたけれど、そのうち10曲くらいは歌詞まで暗記してたわ!)、カバー曲を入れたらその倍くらいは知ってる。
 そのあたりが「キング」たる所以なんでしょうね。
 
 あと、私は10代から映画沼にもハマってて、テレビで放映される映画は片っ端から観たんで、エルヴィス映画も10本くらいは観てる。もちろん当時から午後9時の映画劇場枠にはかからなくって、深夜か「午後ロー」でしたね。
 「オン・ステージ」は観た。「オン・ツアー」は観てない。
 本作でも描かれるラスヴェガス公演が「オン・ステージ」になったんだよね。
 あ、それから、ウォーホールの「Elvis I・II」は壁に掛けてる。もちろん、シリアルなしの量産バージョンですけどね。
 
 本作を観てよかったと思ったのは、「時代の文脈としてのエルヴィス」を初めて理解することができたこと。
 曲は知ってるし、その恰好良さも理解できてるじゃないですか。あと、主演映画が駄作揃いだってことも、後付けで観てもわかる。
 でも、社会的文化的位置づけは、同時代を過ごさないと知ることが出来ない。
 本作ではそこが描かれていた。
 「女性ファンが熱狂して失神する」なんて、大戦中すでにシナトラでも起こってたことだけど、エルヴィスはそれどころじゃない露骨なセックスアピールだったんですね。
 それから、セグレーションの時代において、ここまで重要な「境界者」であったなんてことも初めて知った。
 「BB」「EP」と呼び合う仲だったり、黒人コミュニティにも受け入れられてたこととか。
 
 ああ、それにしても、トム・ハンクスが不快だったわ!
 もちろんそれはバズ・ラーマンがそういう意図で撮ってるし、きっちりそれを体現してるトム・ハンクスが見事だってことなんで、きっちりそれに私が乗せられちゃったって話なんで、本作が企図するものはちゃんと伝わったってことになるんだけれど、この感覚は「ウォルト・ディズニーの約束」のエマ・トンプソン以来だったわ。
 あ、あっちもトム・ハンクス出てたね~(笑)。
 あと、トム・ハンクスとエルヴィスの共演は「フォレスト・ガンプ」もあったか。
 後半はもう、トムが喋るところが全部不快だった。
 いつもよりちょっと高いキーで喋ってるんだよね。しかも「エイリアン」なんで、普段はややゆっくりに話してて、そのリズムも気持ち悪いし、早口になったらなったで、アメリカ英語じゃない強い"t"がやたら耳につく。
 
 まあ、おれをそこまで不愉快にさせてくれたバズとトムも天晴れなんで、逆に満点を献上しましょう!

 余談。
 本作のプレスリーの死亡報道で「デビルズ・リジェクト」を思い出した。
 マルクス映画研究家が「エルヴィスの野郎、グルーチョの3日前に死にやがったんだよ! だからあいつはニュースのヘッドラインを全部掻っ攫っちまって、グルーチョが全然報道されなかったんだよ!」って怒ってましたね。
 エルヴィスファンの保安官に「摘まみだせ~!」なんて激怒されてましたけれど(笑)
 エルヴィスの死が1977年8月16日で、グルーチョは1977年8月19日です。
 
 さらに余談。
 グルーチョ・エルヴィス問題は日本でもありました。もっと切実に同じ日に!
 それはその2年後の1979年9月3日。
 この日、「昭和の名人」六代目三遊亭圓生が亡くなったんですよね。
 でもって、同じ日に上野のランランが死んじゃった。
 もう、新聞はランラン一色ですよ。
 往年の喜劇役者がロックスターに負けるならまだしも、圓生師匠、パンダに負けちゃったよ!

 際限なく余談。
 本作でも語られてたバーブラ・ストライサンド版「スター誕生」(3回目の映画化。この作品から「スタア」じゃなくなった)の相手役は結局クリス・クリストファーソンになりましたね〜
 ってかプレスリーに白羽の矢が立ってたなんてことも今日初めて知ったわ!