ジェイD

子供はわかってあげないのジェイDのレビュー・感想・評価

子供はわかってあげない(2020年製作の映画)
4.4
うわぁ…!尊いッ!!来たよ来たよ胸騒ぎってやつがッ!!爽やかな高校生の青春物語と、生き別れた実の父と過ごす中で少しずつ戻っていく親子の形。夏休みに訪れたほのぼのとしたキラキラとした面白おかしい日々。

高校2年生の水泳部次期エース美波は、高校の屋上で筆を使ってアニメキャラを描いていた書道部のもじ君に出会う。アニメを通じて意気投合し交流していく中で、美波は新興宗教の教祖と噂される実の父の居場所にたどり着く。父との関係は、部活の合宿は、はたまたもじ君との恋は?

漫画実写化とは知らず、前情報一切無しに等しい状態で鑑賞。これがまた「あれ?観る箱間違えたかな?」という戸惑いOPから始まるもんで困惑。設定のクセが凄いアニメに加えなぜか号泣する上白石萌歌、テレビに映るクレジットには大物声優が名を連ね、なんだこの無駄遣い。弟はわんわん騒ぐし娘父はEDの振りを完コピ、母は何を作っておる。それを割と長回しで撮るコント感。あ、笑っていい映画なんだコレ笑

前半はもじ君との甘酸っぱい青春、そして探偵(?)である彼のお兄(ネエ)さんと出会ってからの後半は実の父との絶妙な距離感のある種の実家帰省。この二幕構成なのだが、これがまたシュールなユーモアに溢れたシーンばかりでクスクス笑ってしまう。

もじ君との青春はアニメマニア同士の高度なアレ良いよね合戦から始まり緩やかに進んでいくのが尊い。言ってしまえば「2人の間でしかわかり合えない事実」なわけでそりゃあ熱くなるよね、もっとやれとなるわけです。後半の展開においてトレンディドラマのような演出があるのですが、そのあたりからこの恋が急加速を始め我々観客はマスクの下でヤバい表情をしながらハリウッド大作のバトルシーン並みに手に汗握りながらその行く末を見守ることになる。ラストシーンのまあキュンキュンすること。学校の階段という場所を使った回想とも違うセリフの使い方がすごく良いんです。

母が再婚したことで今もうお父さんがいる中でこっそり実の父を探しに行く、しかもその父はやたら宗教絡みで怪しい、という設定だけならダークになりかねないパートも、父・友充の不器用すぎる父親らしさや美波の底無しの受け入れの速さと今作のユーモア溢れる雰囲気でゆったり進む。人の心が読めると豪語する父だがどうも娘の心は読めておらず、でもちゃんとお父さんでいようと挑戦して張り切ってテレビ買ったりするところもあって憎めない。もう美波には家族がいて、共に家族として生きる人生には戻れないけどそれでも親子の形を少しずつ戻していくセラピーのような時間は心を温めてくれる。

伏線回収というには早すぎる、言われたことがすぐ起こる可笑しみや、画面中央で喋るキャラの後ろの方で何か面白いことがもう起こっているという画角のユーモアが楽しい。かと思えば人の思いや教えが伝わって奇跡が起きる、まさに「布教」することによる感動や煌めきに満ちている。終わった後の清々しさとトキメキ、夏の青春をこの歳になっても擬似体験できる素晴らしい一作。
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