ジェイD

私ときどきレッサーパンダのジェイDのレビュー・感想・評価

私ときどきレッサーパンダ(2022年製作の映画)
4.2
銀河の運命をかけた父と子の親子喧嘩があるならチャイナタウンで繰り広げる母と娘の親子喧嘩があってもいいじゃない。反抗期と思春期、毒親問題を良いとこ悪いとこまとめてモフモフにして吹き飛ばす秀作!

トロントのチャイナタウンに住む13歳の少女メイは、過保護な母に翻弄されながらも理想の子供として奮闘していた。しかし急激なストレスに振り回されたある日の夜、彼女は感情の昂りによってレッサーパンダに変身する体になってしまう…。

前半のぶつ切りなテンポ感には少し驚いた。明らかにこちらをおちょくってるとしか思えない、ページ開いたら前振り関係なく爆発が起きてたコロコロコミック並みの過程のすっ飛ばしぶり。まるで小中学生くらいの子供の精神状態そのもののような感情の嵐。後半になるとテンポがしっかりと落ち着くのも展開を見ていると納得。

今作が描いていたのは子供から大人になるという通過儀礼。やりたいことなんでもできると思っちゃう、厨二病に侵されてノートに詩を書いたりイロんなことに興味が出るお年頃、それが親に見つかった時の絶望。俺の黒歴史を掘り下げんでくれんか。女子主人公なので自分が拾いきれない、共感しきれない表現もあったかもだけど、思うに男女変わらず思春期のなんともいえん高揚感と痛さは普遍。

それにしても今回の毒親母ちゃんすごいな。母の束縛と暴走ぶりがリメンバー・ミーの「音楽はダメ!」をいとも容易く余裕で上回るレベルのもので呆然。あまりに典型的すぎるモンペっぷりが現実的に無いともいえない加減で、メイの母が映るたびに胃がキリキリする。大人になるために必要な『自律』の前に立ち塞がる大きな壁、最強のラスボス。しかしどうやら原因は一筋縄ではいかず、ピクサーが描いてきた"家族"というテーマのダークサイドをじわじわと映す。

そんな強敵相手に大丈夫かと思うが、メイには熱い友情がある。推しを通じて強くなる絆、同年代という家族とは違う自分の理解者、姿が変わろうとウチらズッ友でしょ!と一緒にしょうもないバカができる存在。大人になってもこうであって欲しいと思えるガキどものまぶしさには頬がゆるむ。

また、父という異性の家族も重要な存在。普段は優柔不断かと思われるくらいだが、程よい距離感だからこそ得られる客観性、会話が少ないからこそ本心のこもった言葉、本当はもっと話してみたいんだけどなんか普段は恥ずかしいような。娘だけでなく妻の理解者でもあるかなり稀有な存在。

自分の良い面も悪い面も受け入れてようやく一人前になる。それができずに親になる人もいる。若気の至りで傷つくこともあるけど、ぶつかり合ってやっと解決に向かうことができるし、家族にも良い面はある。そしてそれが家族の悪の輪廻を断ち切る。かなり心抉るような描写とまさかの大感情バトルに圧倒される見応えのある一作でした。

それにしても推しという存在って改めて偉大すぎる。推しと同じ空気を吸った限界オタクの描写がやたら的確だったな笑 嬉しいはずなのに「イィヤア"ァァァ〜!!!」と叫んだりやたら盲目になる感じ。
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