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窓ぎわのトットちゃんのジェイDのレビュー・感想・評価

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
4.6
純粋で自由な子供たちには、常に学びと遊びが守られるような場所が必要。それがたとえぜいたくを敵とみなす戦時であっても。温かく色鮮やかなアートから心臓が止まる様なショックまで描き切るトットちゃんの物語。

これはまだ黒柳徹子が今よりちょっとおてんばな小学生だった時の本当のお話。落ち着きの無いことを理由に転校することになったトットちゃんは、新たな学校"トモエ学園"でたくさんの友達と優しい先生に囲まれて、たくさんの初めてを経験することになる。

正直観るはずなかったのだけど評判が良いので〜と鑑賞。その期待に応えるだけあるとんでもない秀作でした。原作小説は昔チョロっと読んだっけ?くらいだったのでほぼ初見なわけでしたが、アニメ映画ならではの色彩と柔らかいタッチのキャラ達の躍動に心がポッと温かくなる。

主に描かれるのはトモエ学園でのユニークな教育と小児麻痺を持つ少年・泰明ちゃんとの交流や家族との日々、といった日常そのもの。今の時代だと多動とかADHDなどと言われてしまうようなトットちゃんの言動が、今作では底なしの明るさとバイタリティとして彩ってくれる。そもそもトモエ学園が小林先生による当時からしたら先進的なリトミック学習を基盤とした教育で多様な個性を持つ子供が集まる場所だったことから、トットちゃんも馴染めたのだろう。その純粋さを表現するような空想パートはトットちゃんのワクワクから不安まで最大限に見せてくれた。

今作では泰明ちゃんとの交流が一本の軸になっているようで、子供だけで何かを成し遂げることの煌めきがじんわりと伝わってくる。中盤の2人で木に登るシーンなんかがそう。小児麻痺で片手片足動かない子をおてんば小学生が引っ張り上げるという冷や汗ダッラダラな場面ではあるが、やり遂げた先にある2人だけの世界がこれまた美しい。そこからいくつものボーダーを乗り越えていく2人の友情にはもはや勇気さえもらえる。あの雨の日のダンスシーンなんてヤバすぎたもん、すべての光が彼らの味方だったかのようで。どうかずっとこの幸せが続く様にと願うほどに感情移入していた。

しかし今作がただのほのぼのアニメではないということは中盤以降からわかってくる。というかいやでも認識せざるを得ない。時代としては1940年代前後であり、少しずつ彼女たちの生活に戦争が侵食してくる様が描かれている。目に見える空襲とかではなく、ラジオ放送や言論統制、食べ物というようにじわじわとトットちゃん達に近づいてくる。これがメチャクチャ怖い。子供の目線から見える少しずつ明らかになる現実として異様な空気感を作っていた。

ある種トモエ学園は子供たちを戦争から守るための楽園でもあった。だからこそとある悲劇をきっかけにトットちゃんが疾走するあのクライマックスは、楽園の囲いが落とされ現実を直視せざるを得なくなった恐怖と困惑が見えてしまったかのようだった。それはトットちゃんの成長でもあるが、子供には十分すぎるほどの悲しみだった。空気そのものが戦争に染まってるようなあのシーン、息が詰まりそうだった。

黒柳さんは今まで原作の映像化になかなかゴーサインを出さなかったらしいが、個人的には今改めてこの物語を世に出せたのは意義があると考えている。今もなお戦争が起こっている現代において同じ様に恐怖を抱える子供達がいるはずで、自分に何ができるわけでもないけど、小林先生のようにその居場所を作って「君は本当は良い子なんだよ」と伝えてあげられる人が少しでもいてくれたらと考えるキッカケになったかもしれない。
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