ジェイD

ウィッシュのジェイDのネタバレレビュー・内容・結末

ウィッシュ(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

100年の歴史を振り返ったうえで描く『星に願いをの映画化』ともいうべく一作。すべての人が持つべき願いとその向き合い方を示すドラマティックミュージカル。

どんな夢も叶う王国ロサス。偉大な魔法使いでもある国王マグニフィコのもと、国民は自分の願いを捧げることでそれを叶えてもらう日を夢見て日々を過ごしていた。しかし17歳のアーシャは、叶えられる願いは僅かでありその他は閉じ込められているという真実を知ってしまう…。

かつては願ってればいつかは叶うよなんて微笑んでたディズニー映画が時代に合わせてしっかり理にかなったメッセージを突きつけてきたなぁと唸ってしまった。夢は願って誰かに叶えてもらうものではなく、自分の力で諦めずにモノにするべきだと言ってきたのである。全くもってその通りである。真新しい話では全然無いのだけど、魔法やファンタジー、妖精や魔神で夢を魅せ続けてきたディズニーが言うと俄然説得力があるような気がする。

ディズニー作品というとどうしても「いつか王子様が…♪」とか初期作品のイメージからか、姫様が楽に夢を叶えてるような印象を持ちがちだと思う。しかし実際のところディズニー主人公達ってほとんどがかなり行動派で、魔法とか個性があるにしても自分でなんとかしようと決断し続けている。今作が伝えたいのはそうした精神性だったのかなと。叶えて叶えて〜と他人にすがる前に一度自分で動かなきゃ、勝手に夢を忘れて機会を失っちゃうよ?的な。

そしてアーシャはそれを後押しする存在になるべく、それこそ見習いのように奮闘する。なんかアーシャさん、びっくりするほど自分の欲が無いというか…彼女の願いがちゃんと描かれてないしそんな人いるかってくらい利他の心の具現化の様なキャラ。だから驚いたのが、最初彼女はプリンセスだと思ってたら最後フェアリーゴッドマザーのポジになったところ。そうか、アンタはスター側に立つのね!願いを叶えるためにフォローする存在になるのね!と。ディズニー社としてもこれから先も夢を見せて、みんなの夢を応援するよ!的な所信表明にもなってる笑

あと水彩画っぽい3Dのルックについては…ちょっと違和感だったかな。手描きか3Dのどっちかに振り切って欲しかった!原点リスペクトってことなんだろうけど、かえって昔のCGっぽいというかのっぺりした動きに見えた。静止画にしたらキマるのかもしれないけど、なんか動いてる時は最初のシーンなんか特にオロロ?ってなったかな…。

そして今作の魅力であり減点要素でもある語り甲斐がありそうなのがヴィラン。マグニフィコさんがねぇ…魅力的ゆえにもどかしい。コイツの言ってること社会主義っぽいけど、別に間違ってないんだよなぁと思ってしまうところがある。彼魔法を使えるし夢も叶えられるけど、圧倒的に感性が現実の人すぎる。国のため、つまり他人の為になる夢だけは叶える、しかし利己的だったり国を揺るがすかもしれない夢はたとえ素敵であっても叶えない。後半から禁断の書によってやり方をどんどん間違えていくけど、その背景からわかる通り自分の理想郷でもあるロサスを失いたくない奪われたくないという感情からの動きだから理解はできる。なんか、魅力的なヴィランに共感しちゃうと倒すカタルシスがモヤるんだよな…。最初から願いを魔力に変える極悪鬼畜ならまだしも、ちゃんと保管してたからさぁ…。
それにこの政策の先にあるロサス王国って、夢を忘れた廃人だらけのディストピアなんだよな…。みんな自力で動こうとしないしトップに頼るだけで何もしない国民ばっかりになるぞ。どうしてユートピアを作ろうとするキャラってみんな統治国家の支配者に落ち着くんだろうな。報われねぇなぁ。別にお妃様も嫌いになったわけじゃないだろうから魔法から醒めるまで牢で頭冷やしとけ。

だからね、大人だって何歳になってもアホで幼稚な夢を持ち続けていいと思うんです。18歳で夢を差し出す=大人になることで夢を諦める、現実で生きる決心をするってことでしょう?そら現実社会はね、金や職が無いと生きてはいけないですわな。夢を叶えるのも、実現させるまで諦めないような強い情熱が必要ですからメチャクチャ大変ですわな。でもって仕事の裏で副業ミュージシャンになっても別にいいじゃない、割とそれが叶いやすい時代になってきましたよ?せめて胸に留めておいて、叶えるために本気を出そうと思った時に踏み出せればいい。そういう魔法を見せるのがディズニーの役目でしょうし。

数多くのオマージュや小ネタを散りばめながら最も核となるディズニーの夢のエッセンスを描いた。一人一人がかけがえのないスターなのだから、その願いは自分の力で光らせなければ。もちろん、今作におけるスターやミッキー、そしてディズニー映画たちは夢の形を星のように描いて見せてくれるが、あくまでも手助けとしてである。観客の現実そのものまでは介入できない、しかしそれが彼らの正しい役目だから。僕たちが願うこと、いつまでも膨らむ様な夢、それをこれからもディズニーは魅せてくれるだろう。しかし"叶える"ならば、自分で動かなきゃ。なんだかんだ、自分がディズニーが好きな理由が理解できた気がする。

感動的なエンドロールの演出で一個だけ引っかかったところあるからそこはネタバレコメント欄で。
ジェイD

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