ジェイD

PERFECT DAYSのジェイDのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.7
日常にこそ楽しみがあり発見に満ちている。ただいつもの日々をいつも通りより良く完璧にしたいだけ。それでも全然違うことが起きるのが人生ってもの。同じ一日なんて日は無い。

東京・渋谷の公衆トイレの清掃員である平山。いつも通り朝起きて仕事をして余暇を楽しんで木々を愛して帰る。そんな毎日が、後輩や親戚、見知らぬ人々によって少しずつ色合いを変えていく。

木漏れ日を眺めることで笑顔になるような無口な1人の男のルーティンを見ているだけの映画。それなのに何故こんなに愛おしいのだろうか。いまだにカセットテープで音をかけて連絡はガラケー、趣味はフィルムカメラと読書で休日にはランドリーへ。映る背景はずっと現代なのに彼のいる場所の空気だけずっと昭和の匂いがする。時代は逆行しつつもその姿に共感するのは、彼が生きていることそれ自体に意味を見出しながら生きているからなのかもしれない。あ、夜明けの空だ。お、可愛い苗があるぞ。と自然に思いを馳せながらも、常連として足を運ぶ飲み屋があり知り合いもいて人との関わりも無くさない。社会の生き方というより人としての生き方を体現してるから、俄然彼が魅力的に見える。

しかし彼の職はトイレの清掃員。東京の公衆トイレの外観デザインの多様さに惚れ惚れするものの、彼がしっかりと隅々まで掃除する姿に少しばかり驚きを感じてしまう。何が彼をそこまで真剣にさせているのだろうかと。もちろん仕事だからちゃんとやるのが筋だし、そうした方々のお陰で自分たちもこの世界を生きることができている。でもなぜこの職業だったのか、理由は語られない…無いのかもしれないし、劇中の登場人物たちも踏み込むことはない。色々あったんだろうなとしか言えない、でもそれが一番リアルかもそれない。

今作のモチーフである『木漏れ日』と同じくらい自分が印象的に感じたのは平山さんの「手」だった。仕事柄、彼の手は衛生的には汚れていると思ってしまうのが正直なところ。しかし彼が苗木を大事に持っていく時、サンドイッチを頬張っている時、そんなことは微塵も感じさせないのである。思えば彼が手を洗う描写も無い。なんか「そうじゃないんだよ」と言われているような気もするけど、彼の手は綺麗だとより強く感じる。

話を戻して、なぜ彼は家族から離れて今の生活を選んだのか。後半に現れた彼の親戚の姿を見ればなんとなく察する。対照的そのもの、でも否定したいわけじゃないから、違う世界で生きていたい。この世界にはたくさんの世界があるといった話があったけどその通りで、1日2日会っただけの誰かに感情ぶん回されたりする日もあるくらい人生って世界なんだよね(何を言ってる)。

自分はまだ彼の様に生きていきたいと思えるほど心の余裕は無いけど、まずは朝起きて空を見上げてニコッと笑うことから始めてみようかと思う。いつも通りコーヒー飲んでパン食って外に出て、でもそっから先はやっぱり違って…みたいなことはしてみたい。
ジェイD

ジェイD